「注文をまちがえる料理店」の作り方
「注文をまちがえる料理店」は、一言で言うと、注文をとって配膳をするホールスタッフが全員「認知症」の状態にあるレストランです。オーダーや配膳に時々間違いが起きることもありますが、お店の看板で最初から「注文を間違える」ということを掲げているわけなので、仮に間違いが起きたとしてもお客様の中で怒る人は誰ひとりとしていません。店内は、間違いが起きたとしても、それを許容するやさしい空気と、むしろ間違いが起きたらわっははと一緒に笑ちゃいましょうというおおらかな雰囲気に包まれています。
2017年6月にプレオープンとして、身近な友人や知人80人ほどを招き、2日間限定で開いてみたのですが、すぐにTwitterやFacebookといったSNSを中心に、情報が爆発的に広がりました。
大きな反響を受けて、3カ月後には、規模を大幅に拡大して行いました。インターネットを通じて寄付を集めるサービス、クラウドファンディングを通して、24日間で493の個人・企業・団体から1291万円の支援を集め(中には高校生がお小遣いを全額寄付してくれたりもしました……泣)、東京・六本木のレストランを舞台に、今度は3日間限定でオープン。300人近い一般のお客様がお越しになり、国内はおろか、世界20カ国以上の国から、問い合わせや取材の依頼が殺到する事態に……。料理店は、大盛況のうちに幕を閉じました。
現在は、当初実行委員会として集まったメンバーとともに「一般社団法人 注文をまちがえる料理店」を設立し、不定期にイベントを開催しています。
なぜ「注文をまちがえる料理店」は、こんなにもたくさんの方に受け入れてもらえたのでしょうか。認知症という社会課題を取り扱っているから?それとも、料理がおいしそうだったから?
僕は、そのどちらでもなく、多くの人が思わず「この指だったらとまりたい」と思う「指」=コンセプトを掲げられたからだと考えています。
「注文をまちがえる料理店」のコンセプトは、「まちがえちゃったけど、まあ、いいか」。たとえ間違いが起きたとしても、その間違いを受け入れて、むしろ一緒に楽しんじゃおうというもの。みんなが間違いを笑顔で受けとめ合えるような、やさしい空間を作りたかったんですよね。これって、認知症の状態にある人であろうとなかろうと、誰にとっても「いいなぁ」と思える世界じゃないかなと思ったんです。
だって、間違えることって誰にでもありますよね。職場でミスをして怒られへこんでいる人、テストで失敗して落ち込んでいる人。共感してくれそうな人たちの顔が、頭の中にたくさん浮かびます。
僕だってそうです。僕は極度の方向音痴なのですが、ナビを見ていたとしても一歩目から間違えたりします。そんな時は、自分で自分にがっかりして落ち込みますが、一緒にいる人が「いいじゃん、いいじゃん」と言ってくれたら、どれだけ心が軽くなることか。