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「日本的な結婚制度というのがあった方が人口が減ることになるんだと思います」欧州との比較で見えた日本で子供が増えないワケ

『不倫と正義』より #2

note

遺伝子プールが「家を守る」

三浦 自民党は保守政党なんですが、一部の議員を除けば、子育て政策は割と中道です。日本政治の分断は、憲法や日米同盟をめぐる意見対立にあります。だから、経済政策は中道にどっかり自民党が陣取っているし、社会政策も発想が非常に社会主義的でマーケットオリエンテッドではない。

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 先に挙げた企業主導型のベビーシッター補助は比較的そうではない政策ですが、手続き面で言うとかなり非効率で従来的な発想が強い。しかも、企業の福利厚生にしても何を損金算入してよいと認めるかというと、企業のビル内の保育施設の設置など、恒久的な制度のみ。だから、たまたま夫婦の出張が重なったから、ベビーシッターを活用したいというときに雇い主が補助を出しても、福利厚生費として損金算入されないんです。賃金とみなされちゃう。キャバクラの接待も社用車も経費になるのに、子供が関わる部分だけはなぜか「私事(わたくしごと)」としてはっきり除外されてしまう。これって女性が結果としてどれだけ輝けるかという発想ではないということなんです。ほんとに頭が固いの。

中野 そういうことですねえ。

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三浦 国家は、いったいどういう発想で私事と公を分けているんでしょう。これまでは、基本「家」という、予測可能で安定した社会秩序を守ってきたんだと思うんです。ただ、その裏返しとして、子供が増えなくてもいいという方針を貫いているように見える。結果的に見れば、やっぱり家を守ることを、子供を産んでもらうことより優先していると思われてもおかしくない。

中野 そこね、どうしても「家」が出て来ちゃう。

三浦 「家」を守るというのは、これは日本独特の発想ですね。これは本郷和人さんがおもしろい新書(『権力の日本史』)を書かれているけれども、日本における家督相続のあり方の変遷の過程で、血筋ではなくて「家」を守るようになったと。養子が多用されてきたのはその通りです。日本では将軍の落とし胤という話を聞くことがありますよね。高貴な武人がその家を訪れたときに妻を夜伽に出すというへんてこな風習もあったと。

中野 歓待の掟ですね。

三浦 高貴な胤をもらったことで家の格が上がる─という発想がある。家督相続を繰り返して、後世に家名と財産を受け継いでいくことが社会秩序の基本にあるとすれば、それは個人の幸せを重視する立場ではないし、必ずしも子供が多ければいいというわけでもないんですよね。