4月29日、タクシー大手「第一交通産業」が今年6月に取締役を退任する代表取締役創業者会長・黒土(くろつち)始氏(100)に対し、15億9400万円の特別功労金を支給する方針であることが報じられた。

 直近の役員報酬は3億1000万円にも上ったという黒土氏。日本最大級のタクシー会社の創業者とは、一体どんな人物なのか。黒土氏の“苦労時代”、会長就任後の様子、コロナ禍での第一交通産業の経営を報じた「週刊文春」の記事を公開する。(初出:週刊文春  2022年4月21日号 年齢・肩書き等は公開時のまま)

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生涯現役がモットー

「100歳を迎えるまで生涯現役をモットーにしてきた」

 御年100歳、九州の名物経営者が第一線を退く。タクシー大手「第一交通産業」(福岡県北九州市)の黒土始会長だ。今年6月の株主総会をもって代表権を返上し、相談役に就くという。

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「第一交通のタクシー保有台数は日本最大級の約8000台。同社を一代で築き上げたのが、創業者の黒土氏です」(九州財界関係者)

 1922年生まれの黒土氏は大分県出身。中国で終戦を迎え、復員後、砂糖の卸売りで財を成した。朝鮮戦争の特需もあったが、次第に経営は悪化する。

「途方に暮れた黒土氏が目をつけたのが、現金商売のタクシー事業。38歳だった60年、第一交通の前身を設立します。最初は5台でのスタートでしたが、他社に先駆け、いち早くタクシー無線を導入し、待ち時間の短縮に成功。顧客から信頼を得ます」(同前)

 ところが、会社は危機に陥る。62年、社員にストライキを起こされたのだ。読売新聞によれば、運転資金が底をつく中、手を差し伸べたのは、裕福な家庭に生まれた妻の早苗さん(故人)。「お金は私が出します」。嫁入り時の持参金から現在の価値で2000万円を託され、凌ぎ切った。

「当時のタクシー会社はどこも労働問題に苦しんでいました。第一交通はそうした同業他社の買収を全国で重ね、企業規模を拡大させていきます」(同前)

 事業を不動産や金融にも広げ、00年4月には福岡証券取引所に上場を果たす。

「01年には娘婿でテレビ朝日出身の田中亮一郎氏に社長を譲り、会長に就任した。13年に旭日中綬章を受章。その後体調を崩し、15年に代表権を返上しましたが、17年には再び代表取締役会長に復帰。連日、会長室に足を運び、陣頭指揮を執っていました」(地元のタクシー関連事業者)