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 その背景には、製薬業界ならではの特殊事情がある。医薬品は、申請から最長で25年間は、特許によって保護される。しかしその期間が過ぎれば、他の会社も同じ成分の薬を製造し、安く販売できるようになる。いわゆるジェネリック医薬だ。このため、巨大な利益を稼ぎ出していた医薬は、特許切れと同時に売上が急落する。

 というわけで、製薬企業は自転車操業式に、次々に新薬を創出し続けなければならない宿命だ。だが、これがそう簡単ではない。この時期に、新薬として承認を得られたのは、年間10数点から30点程度であった。1社が10数点の新薬を出すということではない。1社あたり何千億円という研究開発費を投じている、世界各国の医薬品企業から登場する新薬全てを合わせてこの数字なのだ。新薬創出は、人類の最難の事業というのは決して大げさな表現ではない。

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 新薬候補となる物質が、十分な薬効と安全性を備えているかどうかは、臨床試験を行うまでわからず、膨大なコストと時間を要する。このため、医薬として発売されるまでには、研究開始から10年以上を要することが普通だ。優先権確保のため、特許申請は研究の初期に行われる。このため特許期間25年のうち、独占販売できる期間はその半分ほどに過ぎず、その間に開発にかかった莫大な費用を回収しなければならない。

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 結果として製薬企業は、巨大な売上を稼ぎ出しているのに不安定という、一見矛盾した状況に置かれる。会社の利益の大半は数点程度の主力製品が稼ぎ出しており、それらも売れるのはせいぜい10年でしかない。となれば、一製品が特許切れを迎えただけでも、経営が大きく傾きうる。

 こうした状況に対応するためには、合併によって会社の規模を大きくする他はない。会社を支える柱が5本しかなければ、1本折れただけでも社が傾くが、10本になれば耐えられる可能性も、新たな柱を創り出す力も高まる。ブロックバスターが生まれた時代、大合併が進行するのは必然の成り行きだったのだ。

強引な買収で世界トップへ

 ブロックバスターが合併を促進するケースはもう一つある。超大型医薬のもたらす利益を狙って、会社ごと買収を行うパターンだ。

 そのブロックバスターの中でも史上最大級であったのが、ワーナー・ランバート(WL)社が創出したリピトールだ。コレステロールの体内での合成を食い止め、動脈硬化を予防する効果を持つ。リピトールは低用量でも優れた効果を示し、先行していた各社の類似薬を追い抜いてトップに立とうとしていた。