ファイザーはWL社と提携し、この薬を共同販売していた。ファイザーの強力な販売網の力により、リピトールは史上最速で10億ドルを売り上げる薬となる。WL社の1996年の総売上は22億ドルだったが、98年にはリピトールだけの売上が同じ22億ドルに到達。1つの薬が、それを作った会社よりも大きな存在になろうとしていたのだ。
これに目をつけたのが、アメリカン・ホーム・プロダクツ(AHP)社だ。1999年11月、同社はWL社との合併を発表する。ドル箱のリピトールを奪われると見たファイザーの動きは、まさに峻烈であった。裁判所に両社の合併無効を訴え、3割増しの価格でWL社の株を敵対的買収にかかったのだ。結局、WL社がAHP社に違約金約18億ドルを支払い、ファイザーが約900億ドルでWL社を買収することで決着。この金額は、当時、世界第2位であった日本の医薬品市場総額(約8兆円)を軽く上回る。
あまりに強引に見えた買収だが、結果はファイザーにとって吉と出た。その後リピトールはピーク時に年間130億ドルを売り上げる怪物製品に成長し、ファイザーを世界トップに押し上げる原動力となった。その後もファイザーは、7兆~8兆円規模の大型買収を繰り返す。
1990年時点で、ファイザーの売上は年間28億ドル。世界で14位の中堅製薬企業に過ぎなかった。それが2010年には、売上を585億ドルとし、2位ノバルティス(スイス)の420億ドルを大きく引き離す世界首位に立っていた。
この間、オリジナルのバイアグラのヒットもあったが、他社の類似薬の猛追を受けたこともあり、売上は最大年間20億ドル前後にとどまった。総売上の大半を稼ぎ出したのは、リピトールをはじめとした、買収によって手に入れた製品だ。自社で苦労して新薬を創り出すのではなく、ヒット薬を会社ごと買収して儲けるこの手法は、「ファイザーモデル」と呼ばれるようになる。
帝国の“ひずみ”
巨大買収を繰り返してのし上がったファイザーであったが、合併は企業の体力や社員の精神を消耗させるものでもある。合併のたびに行われる人員削減は、衝突と軋轢を生まずにおかない。
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佐藤健太郎氏による「ファイザー帝国の研究」の全文は「文藝春秋」7月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
ファイザー帝国の研究 コロナ・ワクチンで売上4兆円! ライバルの買収でのし上がる