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「わあ、間接キスだ」セクハラが多発したお座敷遊び

「拒否権がなかった」からこそ、桐貴さんは「お酒」を武器にするしかなかったのだという。当初は未成年飲酒に抵抗があったが、「お客様に『飲まない奴は帰れ』と言われることもあった」という経験を繰り返すうちに、「感覚がマヒしてきた」。

「毎日大量に飲んでいたせいか、かなりお酒に強くなっていて……。ボディタッチがひどくなってきたら、『飲みが足りないんじゃないですか。お流れしましょう』と提案しました。『お流れ』とは、水を張ったお椀を挟んでお客様と舞妓が座り、ひとつのグラスでお酒を一気飲みし合うというお座敷遊びです。お客様がグラスを空にしたら、水を張ったお椀に入れてすすぎ、今度は舞妓が飲むというのを繰り返すのです。『わあ、間接キスだ』と喜んでいるお客様もいましたね。

お座敷での桐貴さん。目の前にはビールグラスが

 お客様の気を逸らすために、『滝流し』というおビールグラスを上下二段に構えて、上のグラスから下のグラスそして口へと流す芸も身に着けました。最初は無理やり飲まされていましたが、徐々にアルコール依存症気味になっていきました」

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 お座敷は夜6時から9時までの「先口」と、9時から12時までの「後口」の二部制。夜遅くに帰宅して、髪結いをする日などは朝の4、5時には起きなくてはならない。ろくに睡眠時間を取れないままにまたお座敷に出なくてはならないので、「お酒が抜ける前にお酒を飲まなくてはいけない。酒漬けの日々で思考力も低下していた」という。

「お前には自分の意見はないのか」

 そんなつらい時期に出会ったのが、ある男性客だという。

「そのお兄さんと会話する中で、『お前には自分の意見はないのか』と言われてハッとしたんです。舞妓になってお人形でいることを求められるうちに、私は自分を見失っていたんだ、と。

©文藝春秋 撮影/宮崎慎之輔

 お兄さんは『僕が手伝うから、好きなように生きてみたら』と言い、連絡を取る手段として携帯電話を渡してくれました。でも、あっという間にお母さんにバレてしまって……。その時、私の中で張りつめていた糸がぷつんと切れてしまった。気が付いたら髪を解いて置屋を抜け出していました。

 花街では舞妓や芸妓が夜に置き屋から抜け出し、バーやクラブハウスに繰り出すことを“夜抜け”と言い、それを防ぐために防犯カメラやセンサーを玄関に設置している置き屋もあります。私のいた置き屋にもセンサーがついたので、玄関を飛び出した瞬間ブザーの音が鳴り響きましたが、私は振り向かずに猛ダッシュして、タクシーに乗り込みました」

 桐貴さんはその足で実家に身を寄せた。「自分を取り戻した」という桐貴さんだが、すぐに花街から離れられたわけではなかった。「旦那さん制度」や「お風呂入り」といった花街のシステムに巻き込まれていく――。

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