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 背景にあるのは、韓国国内における日本への関心の急速な低下である。象徴的に示しているのが慰安婦合意を巡る状況である。周知のように韓国世論はこの合意に否定的な感情を有している。保守政権であった朴槿恵政権が結んだ慰安婦合意に対する反感は、進歩派政権である文在寅政権にもあり、彼らが可能であれば合意の見直しを行いたい、と思っていることは疑いない。だからこそ、韓国世論の強い圧力に押されて、進歩派政権である文在寅政権が慰安婦問題を巡って日本への猛烈な動きを行う状況を作り出して当然に見える。

 しかしながら、現実にはそのような事態にはなっていない。その理由はただ一つ、実は慰安婦合意見直しを迫る「世論の強い圧力」、それ自体が存在しないからである。確かに人々は慰安婦合意に対して不満を有している。だが、この不満は政権の支持率などに影響を与えるようなものではない。人々がより大きな関心を持っているのは、北朝鮮や中国、アメリカとの関係であり、何よりも自らの生活に直結する国内問題だからである。だからこそ、文在寅政権は取り組みの難しい対日関係を巡る懸案を、意図的かそうでないかはともかく、全て後回しにしてここまできたことになる。

日韓関係最大の変数は「文在寅政権の支持率」

 それでは、韓国外交の今後はどのようになるのであろうか。最初の鍵は2月に開催される平昌冬季五輪を契機にして、南北対話が実現するかである。韓国政府はこの機会に大きな期待を寄せており、ここが当座の最大の注目ポイントとなるだろう。

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平昌冬季五輪は2月8日に開幕する ©getty

 とは言えより大きな問題は、中国を巡る問題である。こう着状態にあったTHAAD問題で、韓国側に譲歩を見せ、巧みな「損きり」を行った中国は、スワップ協定延長と合わせて文在寅政権に大きな「貸し」を作った。中国にとっては北朝鮮問題も韓国に対する重要なカードとなっており、アメリカが保護主義的傾向を強める中、韓国国内の中国への期待は再び大きくなっている。この機会に中国が韓国への影響力をどこまで拡大させるかは短期的のみならず、中長期的にも重要になってくる。

 日韓関係については、最大の変数は「文在寅政権の支持率」であるかも知れない。周知のように韓国の歴代政権は自らの支持率が落ちると世論への抵抗力を失い、対日政策を強硬化させることを繰り返してきた。文在寅政権の対日関係の事実上の「放置」は、同政権の極めて高い支持率に支えられてきた部分があり、この支持率がどうなるかは注目である。

 しかしながら、より重要なことがある。それは現在の文在寅政権による対日関係の「放置」とも言える状態が、結果として、日本政府側の慎重な対処が必要な状況を作り出していることである。つまり、韓国政府の「放置」の結果、歴史認識問題の主導権は、朴槿恵政権時代の「政府」から再び「市民団体」に移りつつある。政府間合意に左右されず国境をこえて活動する彼らの動きにどう対峙するか。場合によっては、日本側の動きこそが大きな撹乱要因になる可能性もありそうだ。

【1/2追記】文中に「今年」とあった表現を「2017年」に修正しました。