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追われる感覚だったTJAR。でもいまは違う

田中 僕は講演会やイベントで話をする機会も多いのですが、僕らの山の遊び方や楽しみ方の本質を伝えるのって難しくないですか?

望月 まず自分のやっていることを理解してもらうだけで大変。富山から静岡まで「4日と23時間で走りました」と説明しても、みんなポカンとしている(笑)。大人でもそうなんだから、まして子どもなんてまったく想像がつかないでしょ。まあ、自分がやりたいことをやってきただけだから……自己満足なんです。

田中 自分のやりたいことをやってるだけ、すごくわかります。

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望月 当初はTJARでも「追われる」という感覚が強かったんですよ。一回目はレースという形式に追われる感覚、二回目は前回優勝者としてライバルたちに追われる感覚、それを乗り超えた2014年、2016年は新記録を出さなければいけないプレッシャーに追われていた。でもだんだんそういう気持ちも弱くなってきて、一緒に戦う人がいるから自分も頑張れるし、抜かれないように一歩一歩前に進むんだと思えるようになってきた。綺麗ごとに聞こえるかもしれないけど、ライバルがいなかったら前回の大会新記録は出なかったなと思っています。

 一人はまた別のつらさがあるでしょう? 僕も去年、南アルプスを含む静岡市の市境235kmを一人で踏破したけど、どこで挑戦を止めようが、何をしようが自由。自分の判断でやりたいことが出来るからこそ、苦しさがありました。陽希君はそれをどう乗り越えてるの?

田中 確かに相談をする相手がいないので、自由度は広がるけれど、決断をするのがすべて自分自身という辛さはあります。僕は普段は「イースト・ウインド」というアドベンチャーレースのチームに所属しているんですが、そこではレース中も仲間と話ができる。一人なら命がいくつあっても足りないような過酷な状況でも不安を分け合えるし、協力し合えるのに、ひと筆書きではそれができない。

 誰にも縛られないからこそ、このまま行けるのか行けないのか、進んでいいのかまずいのか、すべて自分の判断。そして無理をして怪我をしたり、状況が悪くなっても、すべて自分の責任です。

望月 逆にレースのようにライバルや大会スタッフが近くいると、あまり余分なことを考えないですむからね。選択肢が限られていて、極端に言えば、「進む」か「止める」かだけ。 

田中 でも一人だと、装備も、いろんな選択肢が目の前にあると何を使っていいか悩むじゃないですか。だから道具は常にシンプルを心がけています。アドベンチャーレースでは、大自然の中で一週間近くも不眠不休でレースを続けるんですが、海外のチームはすごくシンプルで、食べるものもひたすらオートミールだったりするんですよ。それしかないなら、それを食べればいいというスタンス。僕ら日本人はついいろいろ持っていってしまう。キャプテンの田中正人さんなんて、さきイカとか飴とかグミとか40種類くらい食べ物を持っていってますよ(笑)。いまはそれを反面教師にしています。

田中さんお気に入りの行動食「柿の種」。ボトルにもこだわりが ©藤巻 翔