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3、他の人の質問を積極的に受けて、時には教える

「ねえ西岡くん、さっきの授業で出されたこの問題、わかった?」

 星川さんに話しかけられたのは、授業でよく当てられるようになってからだった。

「あの問題、難しくてさ。ここまではわかったんだけど、先ができなくて」

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 はじめに断っておくが、僕は星川さんと話したことはほとんどない。というか、皆無に近い。クラスが同じでもまったく話さない上に、そもそも高校3年生で初めてクラスが一緒になった、そんな相手が星川さんだった。

(そりゃ、話す話題がないんだもの)

 オタクの僕と、真面目で勉強のできる星川さん。接点もなければ共通の話題も皆無なのだ。

写真はイメージです ©iStock.com

「ねえ、ここわかった?」

「あ、ああええと」

 たじたじになりながら、問題を見る。

 これ本当なら逆だろ、と僕は思った。僕よりも彼女の方が絶対に頭がいい。彼女は医学部を目指しているらしく、学校でもトップクラスの成績だ。そんな彼女が、僕なんかに質問するなんて、何かの間違いなんじゃないかとすら思う。それでも、頑張って答えないといけない。

「ええと、これって be about to が解答なわけだけど、この意味って『まさに今、しようとしている』ってことになるよね」

「あ! だから just の意味と同じになって、この選択肢になるわけね。わかった! ありがとう、西岡くん」

 ほぼ教えていない。というか、何も言っていないに等しい。彼女は説明する前に、パパパッと答えにたどり着いてしまった。

(死にたい……)

 頭いい人ってこうやって答えにすぐに行き着くんだなあ、僕とは格が違うなあ、せっかく話しかけてもらったのにチャンスを無駄にしたなあ、と泣きたくなる。

 なんにもできなかったことにナーバスになっていると、彼女は信じられないことを口にした。

「西岡くんって朝も自習室に行ってるんでしょ? 努力家だね!」

「いや、そんなことはないよ」

 そう、本当にそんなことはない。朝に自習室に行っているのは、他に数字を作る方法が思い浮かばなかったからだ。週50時間勉強は自分にはきつい。きついから、朝から自習室に行く他ないのだった。

「みんな言ってるよ! 西岡くんがすごい勉強してるって」

「いやいやいや、そんなことはないんだけど」

 勉強は確かにしているのだが、それで成績が上がるのかは別問題なわけで。そんなふうに噂されるというのは、まあ悪いことではないが、強烈な違和感があるのも確かだった。