3、他の人の質問を積極的に受けて、時には教える
「ねえ西岡くん、さっきの授業で出されたこの問題、わかった?」
星川さんに話しかけられたのは、授業でよく当てられるようになってからだった。
「あの問題、難しくてさ。ここまではわかったんだけど、先ができなくて」
はじめに断っておくが、僕は星川さんと話したことはほとんどない。というか、皆無に近い。クラスが同じでもまったく話さない上に、そもそも高校3年生で初めてクラスが一緒になった、そんな相手が星川さんだった。
(そりゃ、話す話題がないんだもの)
オタクの僕と、真面目で勉強のできる星川さん。接点もなければ共通の話題も皆無なのだ。
「ねえ、ここわかった?」
「あ、ああええと」
たじたじになりながら、問題を見る。
これ本当なら逆だろ、と僕は思った。僕よりも彼女の方が絶対に頭がいい。彼女は医学部を目指しているらしく、学校でもトップクラスの成績だ。そんな彼女が、僕なんかに質問するなんて、何かの間違いなんじゃないかとすら思う。それでも、頑張って答えないといけない。
「ええと、これって be about to が解答なわけだけど、この意味って『まさに今、しようとしている』ってことになるよね」
「あ! だから just の意味と同じになって、この選択肢になるわけね。わかった! ありがとう、西岡くん」
ほぼ教えていない。というか、何も言っていないに等しい。彼女は説明する前に、パパパッと答えにたどり着いてしまった。
(死にたい……)
頭いい人ってこうやって答えにすぐに行き着くんだなあ、僕とは格が違うなあ、せっかく話しかけてもらったのにチャンスを無駄にしたなあ、と泣きたくなる。
なんにもできなかったことにナーバスになっていると、彼女は信じられないことを口にした。
「西岡くんって朝も自習室に行ってるんでしょ? 努力家だね!」
「いや、そんなことはないよ」
そう、本当にそんなことはない。朝に自習室に行っているのは、他に数字を作る方法が思い浮かばなかったからだ。週50時間勉強は自分にはきつい。きついから、朝から自習室に行く他ないのだった。
「みんな言ってるよ! 西岡くんがすごい勉強してるって」
「いやいやいや、そんなことはないんだけど」
勉強は確かにしているのだが、それで成績が上がるのかは別問題なわけで。そんなふうに噂されるというのは、まあ悪いことではないが、強烈な違和感があるのも確かだった。