2019年10月、福岡県太宰府市である事件が発覚した。

 中洲のホストクラブで派手に豪遊し“太宰府の女帝”とも呼ばれた山本美幸受刑者や岸颯受刑者らが、平穏な日常を送っていた主婦を暴行して死なせた「太宰府ホスト漬け傷害致死事件」だ。

 福岡地裁は山本受刑者に懲役22年を言い渡し、その後高裁でも判決が確定。山本受刑者は同県の麓刑務所で服役していたのだが――。

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「なんと今年夏ごろに、山本受刑者が体調の悪化で獄中死していたことが判明したのです。罪を償うことなく、43歳で死亡しました」

 山本受刑者の犯行はあまりに身勝手で、目を覆いたくなるほどに残酷だった。犯行の一部始終を報じた当時の記事を再公開する(初出:2021年6月17日。年齢、肩書は当時のまま)。

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 2019年9月下旬~10月20日ごろ、福岡県太宰府市で主婦・高畑瑠美さん(当時36)が太ももをナイフや割り箸で刺され、20日午前4時50分ごろまでに外傷性ショックで死亡した「太宰府ホスト漬け傷害致死事件」。

 瑠美さんは山本美幸被告(42)と岸颯被告(25)によって家族から引き離され、山本被告らの自宅で同居。日常的にホストクラブへ連れていかれ、そこでの料金は山本被告への「借金」にされていた。

 山本被告らによる犯行はその残忍さから世間の注目を集めた。そして今年3月、山本美幸被告(42)と岸颯被告(25)が瑠美さんへの傷害致死や監禁、恐喝などの罪で有罪となり、それぞれ懲役22年と15年を福岡地裁で言い渡された。

 山本被告らは、2019年10月20日、瑠美さんの遺体を福岡の中洲から太宰府まで車で運んでいる。車内では、別件での恐喝未遂罪により懲役2年執行猶予4年の有罪判決を受けている元暴力団員の田中政樹被告(47)と電話をし、瑠美さんへの暴行が明るみに出ないよう口裏を合わせていた。

山本美幸被告(左)と高畑瑠美さん

 このとき、山本被告と岸被告、そして瑠美さん以外にも車に同乗していた人物がいる。山本被告との10年来の知人である男性Xさん(37)だ。Xさんは福岡県警に死体遺棄容疑で逮捕されたが、後に不起訴となっている(山本被告、岸被告、田中被告も死体遺棄罪に問われたが無罪。検察は不服として控訴している)。

 Xさんは瑠美さんへの暴行に加わったことはないが、この事件の全容を知るためには極めて重要な人物だ。Xさんに取材を依頼をすると、「一審の裁判は終わったし、山本被告と岸被告から逃げるつもりはない」と、取材を受けてくれることになった。

「取材は個室でお願いしたい」という要望があったため、その日は福岡県内のホテルの一室で彼の到着を待っていた。約束した時間から少し遅れて、Xさんが到着した。Xさんは長身で細身、髪は肩まで伸ばしており、ビジュアル系ロックバンドにいるような風貌だ。

 Xさんは神妙な面持ちで、“あの日”について静かに語り始めた——。(全3回の1回目)

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血相を変えた山本被告が「瑠美が息してないって」

「10月19日、いや、日付が変わって10月20日ですね。午前3時過ぎにみゆ(山本被告)がホスト3人を引き連れて、自分が経営するバーにきました。明け方まで飲んでいると、みゆの携帯に着信があったんです。それでみゆが携帯を持って、一度店を出ていきました。

 何があったのかなと思っていたら、すぐにみゆが血相を変えて店へ戻ってきた。かなり動転しているようだったので、連れのホストたちに会話が聞こえないようにまず場所を変えました。するとみゆが『まこっちゃん(岸被告)からの電話で、瑠美が息していないって』と」

取材に応えるXさん ©文藝春秋

 Xさんが電話を代わると、岸被告の「いつもと変わらない、あっけらかんとした声」が聞こえたという。