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ブレーキを踏まない

 うちの息子が面白いことを言っていたんだけど、アメリカの映画のスーパースターはアイアンマンにしろ何にしろ、大体プライベートセクターの人だ、と。でも、日本のヒーローは公務員や警察官が多い。ウルトラマンだって公務員だ。こんなところにも、文化の違いが表れているような気がする。

 では、そのような変革の主体になっていく人々は、一体どのような特徴を持っているのだろうか。

 僕はいつも「人間の頭の中にはアクセルとブレーキがある」と言っている。だけど、ここで大事なのは、アクセルを踏むというより、自分でブレーキを踏まないことだ。

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「ペイパルの兄ちゃん」だったイーロン・マスクが自動運転車を作り始めたり、いきなり「火星に行く」なんて言い出すと、「目の前にどんな障害があっても、アクセルを踏み込んで突き進んでいく」というイメージをどうしても持ちがちだ。

 でも、アクセルを踏み込む力なんて、人によってそう変わるものではない。頭の中のアクセルを全開にしているというよりは、むしろ「ブレーキを踏むつもりがない」と表現する方が、彼らのような人物が物事に取り組む姿勢を理解しやすくなると僕は思っている。

 例えば、イーロン・マスクのスペースXは月や火星を目指すに当たって、大型宇宙船「スターシップ」を開発している。この宇宙船は打ち上げ後に自律的に地球に帰還し、再利用されるというコンセプトを持っている。だが、その着陸実験では、2021年5月に初めて成功するまでに4回の爆発を経験した。

 それでもスペースXの宇宙船の開発が急ピッチで進むのは、イーロン・マスクが一度や二度の失敗では全くブレーキを踏もうとしないから。「今回はダメだったね、次に行こう」と次の試作機を彼は作り、社会の側もそれを許容しているのだ。

 こうした「ブレーキを踏まない」というスタイルによって、瞬く間に新しい世界を作り上げようとした最近の起業家といえば、ウーバーの創業者であるトラヴィス・カラニックだろう。

3時間遅れてきたウーバー創業者

 以前、僕が日本でトラヴィスと会う約束をしていた時、こんなことがあった。 

3時間遅刻してきたウーバー創業者のトラヴィス・カラニック氏 ©getty

 韓国のソウルにいた彼は約束に3時間も遅れてきた。なのに、全く悪びれる様子がない。遅れた理由を聞いて、僕はすっかり呆れてしまった。

「ソウルで警察に捕まっていたんだ」と、彼が言ったからだ。