野球にたとえるなら、1点を追う9回裏ツーアウト。回ってきた打席でツーストライクから空振りし、「ゲームセットか」とガックリきたところ捕手がボールを後逸……というシチュエーションだろうか。送球より早く一塁を駆け抜ければ、首の皮一枚つながる。さあ、ここで踏ん張れるか――。
こういう状況は人生においても時折おとずれる。その“終幕のあとの延長戦”を描いた連作短篇集が『カーテンコール!』だ。
3月末で閉校した私立のお嬢様大学、萌木(もえぎ)女学園。ところが学園側の様々な救済措置にもかかわらず、単位を揃えられず卒業に失敗した学生たちがいた。4月以降、大学は存在しない。「私の人生詰んだ」と天を仰ぐ子たちのもとへ、学園理事長からの提案が。それは半年の間、外出、ネット、面会すべて禁止の寮生活をおくり、朝から晩まで特別補講を受けられたら卒業を認めるというものだった。
「名のある女子大が閉校するというニュースが実際にあったんです。記事には、卒業しそびれた学生の処遇は学校側が責任をもって考えるとありましたが、続報がなかった。すごく気になって、私なりに“その後”を考えてみようと思ったのが発想のきっかけです」
本作に登場するのは、皆それぞれ心身に事情を抱えた“ワケアリ”の学生たち。
「いま、過食とか、エナジードリンクの過剰摂取とか、睡眠障害とか、病んでる子たちの話を周囲で見聞きすることが本当に多くて。私は親の世代なので、そういう子たちの姿を見るのはとてもつらいんです。傍からは“甘え”と言われがちなことでも、当人は深刻に悩んでいるし、背景にはやむにやまれぬ事情があることも多い。そういうケースを一つ一つとりあげながら、『詰んだ』と思っている若い子にエールをおくりたいと思って書きました」
学生たちは、慣れぬ共同生活に戸惑いつつも、やがて各自が自身の心や身体と向き合い、生活を立て直していく。また、老年の理事長が若い学生たちのために心を尽くす理由、はるか過去から現在にまでつながる強い思いが丁寧に描かれ、世代をこえた普遍的なメッセージが浮かび上がってくるところも本作の魅力だ。
「うれしかったのは、普段、感想を言わない父が『面白かった』と言ってくれたこと。理事長に感情移入してくれたんだと思って、身近な人の言葉ですが、励みになりました。私にとって思い入れのある、とても大事な作品になりましたね」
『カーテンコール!』
大学閉校が決まっていたのに卒業単位を揃えられなかったワケアリの学生たちは、一体どんな事情を抱えているのか? 救済措置として課せられた寮生活と補講の中で、少しずつ自身の心や体と向き合ってゆく若者たち。その姿を温かく見守る筆致は著者ならではだ。随所に仕掛けられたミステリ趣向も楽しみどころ。