「少女マンガ」が現代の形になったことは、漫画家・水野英子の存在なくしては語れない。

 水野作品のなかでも、ロックマンガ『ファイヤー!』は、まだ「少女マンガ」という言葉も定着していなかった頃、女性向け雑誌で男性を主人公に、60年代の多様な価値観や男女の愛を鮮烈に描き、多くの読者に共感と影響を与えた。本作に衝撃を受けた読者の中には、のちに漫画家を志した者も多いと言われる。

 そんな『ファイヤー!』が2023年1月に23年ぶりに復刊される。『ファイヤー!』が変えたものとは!?

ADVERTISEMENT

◆◆◆

「日本初のロックマンガ」が描いた“「反体制」の象徴だった頃のロック・ムーブメント”

 水野英子の『ファイヤー!』が復刊される! 小誌前号に掲載された「漫画家・水野英子インタビュー」を読まれた読者は「あのトキワ荘の紅一点の住人だった人!」と思い出していただけるだろう。「懐かしい!」「読んだことあるかも」と反応するのはアラフィフ以上が主だろうか。

博物館「区立トキワ荘マンガミュージアム」として再現されたトキワ荘 ©時事通信社

 草創期の少女マンガの礎を築き、後世に大きな影響を与えた水野英子。その影響力は「マンガの神様」手塚治虫になぞらえて、「女手塚」と呼ばれたほど。

『ファイヤー!』は水野の代表作にして、日本初のロックマンガである。重ねて言うならマンガ好きのみならずディープなロック好きも唸る「本格」ロックマンガだ。

『ファイヤー!』は1969~1971年にかけて、若い女性向けの雑誌「週刊セブンティーン」に連載された。「少女マンガのロックもの=細身の美形キャラが華麗に活躍するキラキラの芸能物語」と思ったら大間違い。ベトナム戦争をきっかけとした反戦運動、ヒッピーカルチャーなどの社会背景と「反体制」の象徴でもあったロック・ムーブメントを絡めた骨太な作品なのである。