はぐるまの家のHPでは施設のことをこう説明している。
福井県越前市(旧武生市)にある青少年保護委託自立支援施設です。
いくつかの経験を経て、ADHDをはじめとする障がいを持つといわれる子どもたちや、様々な境遇を生きてきた子ども達と共に家族のような生活を送りながら和太鼓演奏による慰問や公演活動によって子どもたちの情操教育に寄り添う役割を担っています。
はぐるまの家のある福井県に父親が運転する車で着いた。大きなスーパーマーケットに寄って買い物をすることになって、父親と母親は店に入っていった。車に1人で残った僕は脱走してやろうと思っていたが、そのことに気付いた2人はすぐに戻ってきた。
そして母親は「一緒に死のう」と言って泣き出した。母親は真面目に生きてきて僕をどう育てていいのかわからずに苦悩していたのだろう。僕のことをわかろうと一生懸命やってくれているのは伝わっていたが、僕からしたら「もうええって。そんなんじゃないから」という感じだった。
楽しいとは言い難い施設での生活
施設での生活は、とても楽しいとは言い難いものだった。15人くらいで共同生活をして、朝起きるとすぐに和太鼓の稽古に取り組んだ。その施設は老人ホームなどに慰問で訪れ、和太鼓を演奏して楽しんでもらうという活動を行っていたからだ。
施設には不良だけではなく、いじめられて学校に行けなくなったような子もいた。和太鼓の演奏で、タイやバングラデシュにも行った。施設の近くにあるお寺さんの住職が保護司をしていたので、2週間に1回くらいのペースで通って座禅を組んだりもした。
今思えばこれもいい経験だし、こういう施設に入れてもらえる時点で僕は恵まれている。親がいなくて入れない人もたくさんいるからだ。
しかし、ただのクソガキでしかなかった僕にとってはすべてが苦痛でしかなかった。何度も脱走しようかと思ったが、きっと後でもっと重いペナルティをくらうことになるだろうなと考えてなんとか踏みとどまった。
また、調査官がやってきて僕にこんなことを言う。
「ダルビッシュ有の弟だからツラいんじゃないか」
「お兄さんがすごいと大変だよね」
「小さなころ、お父さんとかお母さんが英会話教室をやっていて夜あまりいないから寂しかったのかな」
僕の目には彼らが大人がほしい言葉だけを探しているように見えた。子どもには子どもなりの事情があるのだが、彼らはそういう見方はせずに、単なる子どもとして接しているように感じていた。