――そうなのですか。
久保 「棋士は10人が10人『昔に詰将棋をもっとやっていた方がよかった』と思っている」と娘に伝えたのですが、あまりやっている感はありませんね(笑)。
塚田 確かに、藤井さん(聡太竜王・名人)を見ていると詰将棋をやっていたほうがいいなと思いますね。
師匠から娘におくるアドバイス、それぞれのカタチ
――お二人は改めて、師匠として、親としてどうありたいかという思いはありますか。
塚田 娘の考えを推測すると、私からもっと言ってほしかったというのがあったと思います。私は師匠の大内(延介九段)が放任タイプだったので、それを受け継いだつもりでした。ただ弟弟子の富岡君(英作八段)は、師匠からかなりあれこれを言われたらしいです。師匠は人によって使い分けていたようで、それを聞くと何でも放任するのは良くなかったと思います。
今は娘の将棋を見て、求められたらアドバイスをします。それ以外は棋譜をさらっと見て、1局について1か所だけ、何かを言うようにしています。
久保 師匠としての在り方は、自分も師匠がやってきたことを見て、弟子にもそのように接しているつもりです。師匠のもとに通い出した4歳のころから「自分で考えて答えを出せ」とよく言われました。直接的な言い回しではなく、周囲の事例を上げて考えさせるんですね。
だから自分も「詰将棋をやった人間が強くなるよ」「年間1万局指している人がいるよ」などと、やや遠回しに伝えています。それを聞いた本人がどうやるかは、本人に任せています。本人の将棋については勝った時にはちょこっというようにしているんですけど、まだ対局が少ないこともあって、なかなかいう機会がないですね。
――これまで成長を見てきて、一番うれしかった瞬間はいつでしたか。
塚田 やっぱり、女流棋士になったときですかね。なれるとは思っていたけれど、何が起こるかわかりませんから。まあまあのスピードでなってくれました。次はタイトル挑戦、奪取を期待したいです。タイトル戦に出たら、着物をプレゼントするとかではなく、対戦相手に関して、自分がその相手と指すならばこうするということを研究して、それをまとめて贈りたいとは思います。やっぱり、勝ってほしいですから。
久保 娘のデビュー戦が東京での対局でしたが、それまで東京対局の経験がなく、色々教えました。将棋は見るのを躊躇していたんですけど、やっぱりスマホで中継を見ましたね。その一局は終盤で鋭い手を指して勝ちましたが、後日に棋士仲間からもその手を褒められたのはうれしかったです。
写真=杉山秀樹/文藝春秋