この4月、粉飾決算や海外原発事業における巨額損失で経営危機が続く東芝の会長に元三井住友銀行副頭取の車谷暢昭(くるまたに・のぶあき)氏が就任する。海外ファンドに頼った6000億円の増資で2期連続の債務超過を回避した東芝は外部からのトップ登用で「出直し感」を強調する。経営危機に陥った東芝が、外部からトップを迎えるのはこれが初めてではない。ただ、過去2回に比べると今度は圧倒的に荷が重い。

三井住友銀行で「頭取になれなかった人」

「東芝の再建を託されるのは天命だ。男子の本懐と受け止めた。東芝は我が国を代表する財産とも言える企業。総力を結集して早期に復活させたい」。新会長の就任が発表された2月14日の記者会見で、車谷氏はこう語った。

東芝の会長に就任した車谷暢昭氏(左)と綱川智社長(右)

 本人はやる気満々だが、外部から見るといかにも唐突な人事だった。東芝のメーンバンクである三井住友銀行による支援のようにも見えるが、そうではない。確かに三井住友フィナンシャルグループの國部毅社長は、車谷氏の上司だったことがある。しかし東芝の会長人事で國部氏が動いた形跡はないし、さらに言えば、車谷氏は銀行を退職してすでに1年が経過しており「三井住友の人」ではないのだ。

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 有り体に言えば、車谷氏は三井住友銀行で「頭取になれなかった人」である。2016年12月、同行は國部毅頭取が持ち株会社、三井住友フィナンシャルグループの社長に就任し、高島誠専務が新頭取に就任する人事を発表した。

 当時、副頭取の車谷氏は「自分が次の頭取」と思い込んでいたらしいが、「人望が薄い」(三井住友銀行関係者)というのが衆目の一致するところだった。頭取の座を射止め損ねた車谷氏は、退任した副頭取のおきまりのコースである三井住友の関係会社トップには就かず、英投資ファンド、CVCキャピタル・パートナーズの日本法人会長という再就職先を見つけてきた。「自分を見捨てた会社の世話にはならない」という反骨心は見上げたものだが、さりとてCVCで目立った成果を上げたわけでもない。

東日本大震災の後、経産省と主力行が「共謀」

 そんな車谷氏を東芝が会長に迎えた背景には「経済産業省の強い意志がある」(東芝関係者)という。7年前の東日本大震災の後、福島第一原発の事故で死に体になった東京電力を「賠償の主体」として生き残らせるため、経産省と東電の主力行は「共謀」した。その時、経産省から東電に取締役として乗り込んだのが現事務次官の嶋田隆氏、三井住友銀行の東電担当は車谷氏だったという。嶋田氏が気心のしれた車谷氏を指名した、もしくは車谷氏が嶋田氏に自らを売り込んだと考えれば、唐突な人事にも納得がいく。

 問題は車谷氏が東芝会長の任に耐えるかどうかである。結論を先にいえば無理だろう。記者会見で同氏は「男子の本懐」と時代がかった言葉を使った。バンカーの車谷氏が城山三郎の人気小説『男子の本懐』を念頭に置いていたことは想像に難くないが、言葉選びがいかにも「不適切」である。

『男子の本懐』は「金解禁」という政策の実現に命をかけた浜口雄幸首相と井上準之助蔵相の物語である。1929年に発足した浜口内閣は「劇薬」と言われた金解禁によって国の財政を立て直し、政府と財閥のもたれ合いを断とうとした。「原発推進」の国策が東芝を危機に陥らせたことを考えれば、原発推進の旗振り役である官僚の推薦で東芝に乗り込む車谷氏が「男子の本懐」とは、まるでブラックジョークだ。