俳優の堺雅人がきょう10月14日、50歳の誕生日を迎えた。

 この夏にTBS系で放送されたドラマ『VIVANT』で堺は主人公・乃木憂助を演じ、その謎に満ちた人物像が、視聴者にさまざまな想像をかき立てた。なかでも注目されたのが、乃木の「F」と呼ばれるもう一つの人格で、普段は商社に勤めるうだつの上がらない彼が危機に直面するたび、Fが現れては叱咤したりしていた。残念ながら、なぜ彼が二重人格になったかについては、けっきょく劇中ではとくに説明されることなく終わってしまったが。

 振り返ってみれば、堺はこれまでにも二面性を持った人物をたびたび演じてきた。たとえば、ドラマ『ジョーカー 許されざる捜査官』(2010年)で演じたのは、昼は温厚な刑事だが、夜は一転して法を犯すことも辞さない冷酷な制裁者に化すという役どころだった。

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 また、NHKの大河ドラマ『篤姫』(2008年)で演じた幕末の将軍・徳川家定は、表向きはうつけ者を装っているが、正室に迎えた篤姫の前ではまともで、国家を憂う明晰な人物として描かれた。その好演には原作者の宮尾登美子も、《[引用者注:家定は]癇症という宿痾(しゅくあ)をもっていたけれど、単なる愚鈍ではないというのが、小説『天璋院篤姫』を書いた私の収穫だとすれば、そこに堺さんが実体を与えてくれた》と、本人との対談で感謝を述べている(堺雅人『文・堺雅人』文春文庫、2013年)。

『新選組!』における「微笑みの意味合い」

 堺雅人といえば、さまざまな感情を笑顔だけで演じ分けてしまうということで定評がある。複数の人格を演じるには、まさにうってつけである。ブレイクする一つのきっかけとなった作品、大河ドラマ『新選組!』(2004年)で演じた新選組の総長・山南敬助は、とりわけ微笑みが印象深い人物であった。

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 堺は、山南の微笑みの意味合いがドラマが進展するにつれて変わっていくのを読み取った。のちの新選組局長・近藤勇と出会った当初は、相手を下に見るような“冷笑”だったのが、近藤についていくと決めたあたりから温かい目に変わっていったというのだ。山南は最終的に新選組から脱走するも、引き戻されて近藤の命令により切腹を遂げる。それでも彼は最後まで微笑んでいられた。そのことを堺は面白いと思ったという(『ステラ』2004年8月27日号)。

「演じていて楽しいのは沖田総司ですが…」

 ちなみに山南の役をオファーされたとき、堺はちょうど同じく新選組を題材にした映画『壬生義士伝』(2003年)で沖田総司を演じていた。堺は山南に対して、司馬遼太郎の小説『燃えよ剣』を読んで小者というイメージがあっただけに、この役を打診されて、《“せっかく今、気持ちよく天才の沖田を演じているのに!”と(笑)》思ったとか(『キネマ旬報』2008年11月下旬号)。

 ただし、《演じていて楽しいのは沖田ですが、生き方として共感できたのは山南ですね》とも語っている(前掲)。別のところでは、山南のような役のほうが演じるのが難しいとして、次のように説明していた。