20%を超える史上最悪の若年失業率にあえぐ中国。「経済版コロナ後遺症」とも評される中国経済の失速だが、その根底にはより根深い「労働」をめぐる問題が横たわっていた。1990年に中国で生まれ、日本で育った、中国現代文化研究者の楊氏が考察する。

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就職「超」氷河期に苦しむ中国の若者

 中国の若者が、前代未聞の就職超氷河期に直面している。

 中国国家統計局が発表した2023年6月の16〜24歳の若年失業率は21.3%と、いまだかつてない数値を叩き出した。

 過酷な受験戦争を勝ち抜いたのに、仕事が見つからず、結局生活するのにぎりぎりの給料しかもらえない「底辺」、すなわちブルーカラーの仕事しか見つからなかったという人も続出した。「卒業即失業」といったブラックジョークもSNSで飛び交うようになった。中国の学生たちは、自らの努力と犠牲に見合った見返りを得られないことに、深く落胆しているのだ。

今年9月14日、上海のベンチでうなだれるように眠る男性 ©時事通信社

 中国政府は社会的なパニックを恐れてか、その後、若年失業率の公表を一時停止すると発表したが、これは社会的な安定と統制を何よりも重視する中国らしいやり方である。ただ、中国のネット上でもその隠蔽とも取れる措置を批判する声が強く、むしろ逆効果となっているようだ。

 世界のメディアでは「このままでは中国経済は大変な状況になっていくのではないか?」と語られ、彼らなりの分析を報じている。なかでもまことしやかに流布しているのは、この不況が中国の「ゼロコロナ政策」による影響、すなわち「経済版コロナ後遺症」だとするものだ。

 しかし、私はコロナ禍よりもはるか以前から、中国社会における労働をめぐる病は深刻な形で進行していたと考えている。いわば、「経済版コロナ後遺症」は単にその“持病”を悪化させただけなのではないか。本稿では、この“持病”の実態について、データと歴史をたどりつつ、詩と労働という点から迫ってみたい。

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 なぜ「労働者の詩」をここで取り上げるのかというと、日本とは違い、労働者が詩を書くという伝統が中国にはあるからだ。中国では、現実の過酷さについて身を以て経験してきた出稼ぎ労働者や「農民工」たちこそが、みずから積極的に詩を書く。そもそも労働者の詩は国家建設のために労働者を動員する手段としても使われていた。それが時代を経て、労働者の生活の過酷さを赤裸々に告白する内容へと変化してきた。だが、そこには一貫した問題点、すなわち中国人労働者が抱える“持病”が象徴的な形で見えてくる。

2.9億人の「農民工」こそ圧倒的マジョリティ

 まず、確認しておかなくてはならないのは、中国における労働者は大学の卒業生、すなわちホワイトカラー予備軍のみを指しているわけではないということだ。

 製造業、エッセンシャルワーク、サービス業、建築業などは、むしろ農村からの出稼ぎ労働者、いわゆる「農民工」が、きわめて低い賃金で、そして高い流動性や不確実性に満ちた労働環境の中で担っていることが多い。