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「カレッタ汐留」の“ゴーストタウン化”はなぜ起きたのか?

2023/11/07
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街で働くビジネスパーソンは?

汐留シオサイト公式HPより

 外からの集客が難しいのであれば、この街で働くビジネスパーソンを相手にするしかない。シオサイトにはパナソニックや電通、日本テレビ、共同通信、トッパンフォームズ、日本通運などの本社が林立している。だがもう一度拡大図をご覧いただきたいのだが、ランチするのに街区をまたいで歩き続けなければならないカレッタに毎日食事のために通う気は到底起こらないだろう。それどころか彼らの多くが新橋駅などから家路につく際に、わざわざカレッタにワープする理由が見いだせないし、安くて居心地の良い居酒屋なら新橋駅周辺に星の数ほどあるというものだ。

 オープン時の新鮮味が薄れるのと同時に客足は遠のき、特にコロナ禍でこのエリアにある本社の多くがリモートワークに移行。顧客を失った店舗の閉店、撤退が相次いだのだ。

 だがこのカレッタ汐留だけがこの街の問題ではない。ここに本社を構えていた電通が2021年にビルを2680億円(推定)でヒューリックやみずほリースが出資する特別目的会社に売却している。電通は売却後ビルの一部を賃借しているが、コロナ禍の影響や人事政策の変更で、コロナ後でも本社に出社する社員は3割程度という。

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 また汐留シティセンターに入居していた富士通は働き方の変革でオフィスを手放すことを発表するなどテナントの解約、移転が相次いでいる。こうした状況を踏まえてこのビルの所有者のひとつ、シンガポールのGICが自社持分を売却する検討に入ったとの情報も流れている。またこのビルのテナントの一部が八重洲のミッドタウンに移転したことから、所有者のもうひとつである三井不動産が手放すのではないかといった憶測も流れている。

まるで孤立した半島

 今一度、街区を俯瞰してみるに、この街は街区外からの人の受け入れをかたくなに拒否している街に見える。東に首都高速高架とトラックが行きかう海岸通り、北に昭和通り、西に第一京浜(国道15号)、JR東海道線、京浜東北線、山手線が走り、そして街区を突っ切るように環状2号線、新大橋通りが街区全体を区切る形になっている。その結果として街全体が、まるで孤立した半島のような形状になっていることがわかる。

撮影などにも使われた汐留「はまかぜの道」 ©AFLO

 唯一、JRの線路をまたいで西側に位置する通称「イタリア街区」も歩くとあまり活気が感じられない。街区オープン時には、イタリアの街を模した統一されたデザインの建物と広場、石畳の道が施され、映画やテレビCMの撮影などにも頻繁に使われた。私自身、このお洒落な街区で数年間オフィスを構えたことがあったが、最寄り駅の新橋からの「遠さ」を感じた。遠さを感じる要因が、新橋の街との区切りとなる第一京浜だった。多くの車が行きかうことも、道路を渡るのに心理的な距離感を増幅させるのだ。