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ふじさわ 読んだことのない方に説明すると、中絶の責任は50%でも99%でもなく100%男性にあると、データやロジックを使って訴えていく本になっています。学術書ではなくて、ブロガーさんがTwitter(現X)のポストをきっかけに書いた本なので比較的短くて読みやすいです。

 紹介を受けた当時は荻上チキさん編著の『宗教2世』という本を編集していたんですけど、日本でも宗教右派と言われているような方々が経口中絶薬の承認の是非を巡って反対の署名を集めて、厚労大臣に提出してるって話を聞いて、これは日本でも(同じ流れが)来るかもしんないなっていうことで、版権を取ろうと思いました。

当たり前のことを大きい声で言ってくれた一冊

りり子 村井さんって、ハードボイルドな事件ものや、家事のノウハウ的な実用書などをよく訳されてるイメージがあったんですが、この話が来たときはどう思われたんですか。

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村井 通常運転です。いつもと同じで「はいわかりました了解です」っていう感じ。

 いつも訳しているいわゆる“鈍器”って言われるような本よりは若干ライトだったので「これはいいね」と思って訳し始めたら、「射精」って単語の連続……(笑)。Sって打つと予測変換で出てくるぐらい、繰り返し書きましたね。最初のうちはちょっと照れもあったけど、最後の方は合言葉、挨拶の言葉ぐらいの感覚になりました。ガブリエル・ブレアさんの文章は練りに練ってあって隙が全くないので、訳しやすかったです。

 ブレアさんって会話の切り返しもすごくうまいんですよね。例えばバイアグラ開発の裏話で、バイアグラが男性の勃起不全にも効くんだけど、実は女性の生理痛の痛みにも効くとわかったと。でも最終的に医薬品会社は勃起不全の方を取ったという話に対して、ブレアさんの切り返しは「なんで両方取らないんですか」っていう。冷静なバッサリ感があって、そういうところを強調して訳したのが楽しかったです。

射精責任』著:ガブリエル・ブレア、訳:村井理子、解説:齋藤圭介(太田出版)

小野 『射精責任』を一番最初に読んだときに「当たり前のことを大きい声で言ってくれたな」と思って。でも、この当たり前のことを言うために、私達は何十年もの時間をかけなければいけなかったんだなという感慨深さが同時に押し寄せてきて、著者の怒りに共感しつつも、胸に迫ってくるものがありました。

村井 「結局こんなことだったんだ」って泣けてくるところが何ヶ所かありましたよね。たとえば、最近「医療現場における女性の痛みのスルーされ感」について書いた本は結構多いと思うんですけど、『射精責任』の中にもそういう記述が結構あって、私たちはそれを普通だと思ってきてしまったんだっていう残念さはすごく感じましたよね。

 これもう断ち切らなきゃ駄目ですよね。私の年代で最後ぐらいにしないと。今の30~40代や10~20代もそうだけど、同じ思いをさせてはいけないんじゃないかなってすごく思った。例えば望まない妊娠をしたとき、多くを背負うのはやっぱり女性なので、若い世代の人にはそれを考えてほしいなって。