取れるところから取る、“銭の女”日野富子の才覚
近藤 ふたりの章のタイトルも対照的です。官能的な「乳を裂く女」に対して、富子は「銭を遣う女」。“金”でもなく“銭”!
奥山 ここはあえて、銭にしました。彼女は小さい銭でもコツコツ集める才覚がある。最終的には大きなお金を握って動かすのだけれど、庶民を相手に、取れるところからちょっとずつ取る方法を思いつく知恵がある。地に足のついた計算高さがあって、それが面白いと思ったんです。だから、銭!
近藤 有名なのは、圧倒的に富子。でも、そのドラマチックさに惹かれるのは今参局です。このふたりの対立を、それこそ大河ドラマで見てみたい!
奥山 いいですねえ。
近藤 義政も、もちろん出して、俳優さんはどなたに?と想像が広がります(笑)。それにしても、足利の将軍がこんなにキャラ立ちしていると思いませんでした。正直、尊氏と義満ぐらいしか覚えていない。義政も銀閣寺以外の印象がありませんでした。
奥山 四代目以降はあまり知られていないですよね。歴史好きでないと……。
近藤 驚きのキャラクターが「籤を引く男」の義教。自身が籤で第六代将軍に就いた腹いせに、他人様の運命を籤で決めてしまうという。
奥山 義教の名前はあまりなじみがないですよね。
近藤 これが史実なのがすごい。湯起請(ゆぎしょう)の残酷さときたら……。それ以外の所業もひどいし滅茶苦茶なのですが、彼に惹かれる部分もあって。お前は将軍にはなれないんだと言われてお寺に出されて育つ。なのに35歳で突然、籤で将軍職に決まり、還俗させられる。心中は複雑であったろうと思います。奥山さんは、どう思ってお書きになりましたか?
奥山 ちょっとかわいそうだな、とは思いながら書いていました。彼も別の時代に生まれていたら、あるいは別のプロセスで将軍職についていたら、ちゃんとした将軍になれたかもしれないのに。