武勲を立てるため、西南戦争に志願した“士族出身”の若き商人の活躍を描いた歴史時代小説『へぼ侍』でデビュー。第2作『インビジブル』では、戦後5年間だけ実在した“大阪市警視庁”を舞台に、はみだし刑事バディが躍動する。最新作『渚の螢火』は、返還直前の沖縄で100万ドル強奪犯を“琉球警察”が追う本格警察小説だ。

 近現代史の知られざる題材を発掘し、歴史エンタメとして発表し続けている作家、坂上泉さん。松本清張賞、大藪春彦賞など数々の文学賞を受賞する一方、コミカライズや舞台化が相次ぐなど、幅広い分野から注目を集めている。その創作の淵源について、著者にお聞きした。

 

【マンガ】「へぼ侍」第1話から読む

子供を学校に送り出すような心境

──コミック版『へぼ侍』の連載が、6月から文春オンラインで始まりました。

ADVERTISEMENT

坂上 メディアの性質が違うところにお預けするわけなので、後は煮るなり焼くなりどうぞ、という心境です。子どもを学校に預けるような気分で送り出しているので、学校の先生がちゃんと育ててくれるだろう、と。もちろん授業参観などで、適宜チェックはさせていただきますが……。

 

 作画のみもりさんの1話目のネーム(構成)を拝見したとき、原作の世界観を理解されたうえで、キャラクターをつくり上げていたのが分かったので、後はおまかせしようと思いました。主人公である志方錬一郎、壮兵部隊で一緒になる3人の侍たち、そしてヒロインの薬問屋のお嬢様が、大変魅力的に描かれています。西南戦争はニッチな分野なので時代考証が大変だと思いますが、今後の展開を楽しみにしています。

 

──8月には大阪の少女歌劇団「OSK日本歌劇団」が『へぼ侍』を舞台化します。

坂上 OSK日本歌劇団の名前は知っていましたが、舞台を観たことはなかったんです。今回、ご招待を受けて別の演目を拝見しましたが、宝塚歌劇団のような華やかさがあると同時に、大阪らしいコテコテ感が同居しているのが魅力ですね。

『へぼ侍』はオッサンばかり出てくる歴史時代小説ですが、舞台では娘役が活躍するようにうまく脚色されています。原作の骨格を残しつつ、華やかな舞台になるんじゃないかと期待しています。

──『へぼ侍』や『インビジブル』など大阪を題材にした作品が多いのはなぜですか?

坂上 出身が兵庫ということもありますし、作家デビューした時に大阪で勤務していたんです。大阪、特にキタに土地勘があった。『へぼ侍』で出てくる天満や道修町、『インビジブル』の摂津、伊丹、茨木などは、当時の経験が反映されているのかもしれません。

 近現代史は東京を中心に書かれることが圧倒的に多いですが、大阪は一時、東京を越える人口を擁した一大文化圏でした。その豊かな土壌から司馬遼太郎、山崎豊子らを輩出した。『へぼ侍』や『インビジブル』という作品を通じて、大阪文化の知られざる一面に触れることができたら、とも思ったんです。