丸川氏が国有地売り払い契約について、官邸関係者から指示がなかったかと順番に役職名を挙げていった場面でも、官房副長官と聞いた時だけ、なぜか佐川氏は目をつむった。だからと言って、官房副長官が問題だと言う気はない。わかるのは、佐川氏の中で官房副長官が何らかのキーワードになっているということ。ちなみに、麻生大臣の名前にもわずかに頷いていた。
答弁を拒否した中で「昭恵さんの名前を見た時の印象」の反応だけ、他とトーンが違ったのも疑惑を深めた要因だろう。
日本共産党の小池晃氏が質問を向けると、苦笑しながら鼻をすっと触り唇をなめた。一瞬、不安を感じたのか、困ったなと思ったのか。そう見える仕草である。そして佐川氏は、それまでと違う理屈をこねて答弁を拒否。その姿勢も、だんだんと身を乗り出して前のめりになったのだ。小池氏の質問時間が終了すると、握った手で鼻をこすった。焦りを感じさせるこんな仕草を見せたのも喚問中、この時だけだ。その後も昭恵夫人の名前に強く反応したことから、彼女への疑惑が払拭されたという印象はない。
どこか他人事だった佐川氏
さて、この証人喚問では、「勉強した」「資料を読みこんだ」「話を聞いた」「当時の担当は」という答弁が多かったように思う。自身の指示については頭を動かすことなく答弁を拒否。席に着くと目をしっかりつむってうつむいていた。改ざんなどの経緯は一切話さず、ガードは固いが、答弁の端々に森友問題と佐川氏の間に距離感があるように感じられるのだ。
小池 では、(昨年)2月から3月にかけて、あなたは何を根拠に答弁したんですか。
佐川 それは、先ほどから申しますように、質問通告があり、各原課で答弁書をつくり、そういうものを基本にご答弁を申し上げておったというのが実態でございます。
小池 その各原課の答弁書は、決裁文書を基本につくられているでしょ。
佐川 大変恐縮でございますが、その答弁が本当にその決裁文書をもってつくったのか、どういう資料をもってつくったのか、それは私が、その各原課がどういうそのファクトを確認しながらつくったのかというのは、私自身はその答弁書を読んでご答弁を申し上げているんでございます。
小池 こんな無責任な話がありますか。いったい何を根拠につくったのかわかりませんと。そこでも部下に責任を押し付けるっていうね、そういう議論になっちゃいますよ。
小池氏が、昨年の答弁の根拠について声を荒げて聞いた時も、小池氏に無責任と言われていたほど、当事者意識が薄いというか、どこか他人事。
その理由は、立憲民主党の逢坂誠二氏とのやりとりに答えがあったと思う。逢坂氏の穏やかな口調に、「前任者の迫田氏からの引き継ぎがなかった」、「昨年2月に初めて森友を知った」と、佐川氏は声を低くして、穏やかな口調で答えた。誰かに聞いてもらいたかった、そんな感情がこもった声のトーンだ。それが事実だとすれば、どこか他人事のような彼の答え方もわかる気がするが、それが答弁拒否を連発する理由にはならない。
財務官僚としては「100点満点だった」という佐川氏の答弁と、追及しきれず、キレのない質問で佐川氏に逃げ切られた野党。佐川氏から発言を引き出そうとするだけでなく、仕草や表情の変化にも気をつけていれば、違う攻め方もできたのかもしれない。
写真=杉山拓也/文藝春秋