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「中国共産党よりマシ」という理屈なら、実は民進党だけでなく国民党も普通にマシで、親日的な要素も持っている(彼らは日本とも中国大陸とも仲良くしたいだけである)。もちろん民進党のほうが日本語人材が多いのでコミュニケーションが上手という側面はあるが、日本人が台湾の他党と比べて民進党だけを突出して愛する理由としては、まだ弱い。

第三の要素「日本の無知と台湾言説のかたより」

 私の見るところ、もっと本質的な理由はこちらだ。少し長くなるが整理していきたい。

 日本では1972年の日中国交成立(日台断交)以来、1990年代まで台湾の情報が極端に減った。現在の北朝鮮ほどとは言わないが、国交がない台湾は日本人から見て「未知の国」になったのである。日本のメディアにも中国に対する忖度があり、台湾の中華民国国旗がテレビに映ることもほとんどなかった。

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 一方、台湾はこの時期に民主化が進んで言論活動が自由になり、かつての日本統治時代を経験した本省人の中高年層が、社会の重鎮世代として日本に向けた情報発信を始めるようになった。

 1993年に本省人初の中華民国総統である李登輝が作家の司馬遼太郎と面会し、「台湾人に生まれた悲哀」を語ったのがその皮切りだ。さらに蔡焜燦、金美齢、許文龍……といった人たちが日本のメディア向けに発信をはじめ、総統退任後の李登輝もその列に加わった。彼らは戦後日本のムードに触れていない「元日本人」でもあり、日本人(私も含む)から見て、佇まいに心打たれる要素が多い人たちだった。

総統時代の李登輝を描いたパネル。2023年1月、台北の国史館の特別展で撮影 ©安田峰俊

 ただ、彼らは戦時中に皇民化教育を受けた植民地エリート(日本語がペラペラで「親日的」な人)という特殊な層でもあった。加えて戦後の国民党統治で過去のキャリアを白紙にされ、外省人優先の社会で苦労して再度のし上がった経歴を持つため、「中国」(中華民国)や外省人の支配に対する怨恨が強い。当然、彼らの多くは台湾独立思想(民進党の本来の結党理念)と近い考えを持ちがちだった。

民進党が「正義」で国民党が「悪」

 ゆえに台湾の植民地エリートは、自分たちが過去に受けた教育と親和性が高い日本の保守派論壇と結びつきやすかった。一方で保守派側も、ときに日本の植民地統治を褒めてくれる台湾の識者を、中国や韓国と違って“まとも”とばかりに重用する。

 これに植民地エリート側も応えて、日本の論壇人を台湾に呼んで盛んに接待した。彼らの価値観が色濃く反映された小林よしのりの漫画『台湾論』が刊行されたのが2000年だ。これは漫画で読みやすいことに加えて、国民党独裁時代を抜け出した台湾の本省人(私の先生も含む)たちからも喜ばれた。結果、ここで示された台湾像は、現在まで続く「台湾好き日本人」の台湾認識の基礎のひとつになった。

『新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 台湾論』(小学館文庫)。こちらは2008年に刊行された文庫版