私は日本人のジャーナリストなので、他国の政治は陣営を問わずクリティック(批評的)に見る立場だ。ただ、仮に自分が中華民国の市民だった場合、おそらく今回の総統選は柯文哲にするか最後まで悩んだ上で頼清徳、立法院選の比例代表はおばさん連盟に投票したと思う。
これらの事情を示したうえで、日本で民進党の人気が極端に高い理由をいくつか考察していこう。
第一の要素「民進党支持は『国益』にかなう」
まず想定される動機が日本の国益だ。台湾はシーレーン上の要衝で保全すべしという認識(「台湾は日本の生命線」)のもと、中国と距離が近い国民党よりも民進党のほうが好ましいという、一見するとリアリズムっぽい考えである。
しかし、これは熱量の高い「民進党好き」日本人が「台湾独立!」を強調する理由について説明できない。中国が台湾に武力を行使する最も確実なトリガーこそ台湾独立なのに(しかも台湾の民意の大多数はそれを求めていないのに)日本人が台湾の独立を声高に求める言動は、リアリズムとは真逆のものだ。もちろん、まったく国益にもそぐわない。
ここまで極端ではなくても、二大政党制の国で片方の側のフィルターだけを通じて相手国を理解するのは「国益」にはマイナスだ。2016年のアメリカ大統領選挙で、民主党に近い情報源が多い日本の識者の大部分がトランプの勝利を予測できなかった事態は、まだ記憶に新しい。
また、本気で国益を考えるなら、選挙戦略のために中国を挑発しがちな民進党(抗中保台)より、対中姿勢が穏健な国民党のほうが予測可能性が高くて助かる……という意見もあってよさそうだが、実際はあまり聞かない。日本人の民進党支持は、本当は国益のようなロジカルな理屈からではなく、もっと情緒的で非論理的な動機にもとづくと思われる。
第二の要素「中国と違って台湾は“まとも”」
ひどいことばかりする(ように見える)中国に対して、相対的に台湾は“まとも”で話が通じる国であるため、民進党の株が上がるという構図だ。これも一見頷けそうな理由である。
ただ、たとえば2013年、尖閣諸島を含む日台間の海域利用について常識的に協議し、日台漁業取り決めを定めたのは国民党の馬英九政権だった。さらに同政権下では、日台間のワーキングホリデー制度導入、東日本大震災に対する日本支援の取りまとめ、国立故宮博物院の日本展開催など、日台の心理的距離を縮める政策が数多く進められた。