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「台湾独立」を熱心に主張するような日本人の認識は、台湾版戦中派世代である金美齢や李登輝の言説や、彼らの認識を反映した『台湾論』の影響がかなり大きい。これまで国交がなく情報もなかった「未知の国」について、民進党や李登輝や緑色陣営の本省人が「正義」かつ親日的で、国民党や中華民国や外省人が「悪」で縁遠い存在だという単純な図式は、なによりわかりやすかったのだ。

 わかりやすい話は広がりやすい。その後も現在に至るまで、主に保守派の言論人やジャーナリストのもとで、こうした認識を基礎にした台湾言説が再生産され続けた。さらにこれらの言説は、ネットで広がり続けることにもなった。

 一般論として言えば、これらの言説は情報のソースが限られ、日本語を介したインプットしか行われていないことがある。場合によっては、ネイティブの台湾社会とほとんど接触しないまま、書き手の周囲の日本語空間の言葉だけで言説が組み立てられることも、ひょっとしたらあるかもしれない。

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「わかりやすい」認識、一般人にも流入

 一方、東日本大震災の際に台湾から多額の義援金が送られたことや、中国への嫌悪感が高まったことで、2010年代からは日本の一般人の台湾への好感度も高まった。結果、そこから関心を持った人が普通に情報を得ようとした場合も、既に大量にあふれていた『台湾論』タイプの台湾言説に高確率で触れがちな図式が生まれた。

 もちろん、現実の台湾社会は多様な住民と意見で構成され、しかもその後の約25年間で価値観は大きく変化している。だが、日本人の大部分は情報源を日本語に頼る。台湾の実際の動向については、研究者の本が何冊も出ているものの、読みやすいのは圧倒的に、白黒がはっきりしている「古い台湾言説」だ。

 情報源の偏りが大きい以上、台湾に興味を持った日本人の多くが民進党大好きになるのも当たり前の話である。読みやすそうな本を読んで「勉強」すると、しばしばそういう事が書いてあるからだ。これに台湾版戦中派世代から引き継がれた、台湾に対する非政治的なノスタルジーが加わることで、日本人は「正義」の民進党に対して、非常に情緒的な共感を寄せるようになっているのである。

「台湾有事」リスクの過剰な見積もり

 ほか、全くの別の流れにも触れておこう。近年の民進党はエリート気質を強め、欧米に向けてはジェンダーの理念やLGBTQの権利重視といったリベラルな面を強く打ち出している。

 こうした民進党の存在は中国への警戒心が高まったアメリカで高く評価され、ワシントンやニューヨークに目を向けているような日本の政治・外交エリートの価値観にも間接的に影響を与えている。つまり、民進党フィルターを介したアメリカ人の台湾認識や中国認識が、日本に間接輸入されやすくなっている。

1月11日、頼清徳の造勢大会でみられたLGBTQの運動の象徴・レインボー旗。台湾の主要3政党のなかでは、民進党の大会に登場するケースが多い ©安田峰俊