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――なるほど。資本力がものをいうホテル業界での起業を目指すなら、ある程度資産形成してから、あるいは一般企業で社会経験やいろいろなコネクションを得てから、とは考えなかったんですか?

龍崎 はじめは私もそんなキャリアイメージを持っていたのですが、高校2年生の時に東京オリンピック(2020)の開催が決まったことが大きな契機でした。日本のホテル業、観光業に大きな波が来ることが目に見えている中で、悠長に大学を卒業して就職をして……というキャリアプランを描いていては、絶対に間に合わないと思いました。日本の観光業が変わっていくビッグウェーブに乗っからない手はないぞ、と。

 折しも2010年代にはインターネットの発展が著しく、誰でも手軽にWEBサイトを作って集客をできるようになりはじめている時代でした。それまで様々な業界で民主化が進み、知識や経済的リソースが限られている個人でも事業に取り組みやすくなっていたんです。Airbnbの台頭などは、その象徴的な事例ですね。

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ドットコムバブルのただ中でリアルビジネスを選択

――東大経済学部という環境では、周りに起業を目指す人も多かったんですか?

龍崎 当時、ドットコムバブルの第二波が来ていたので、起業を志す学生も一部にはいました。キュレーションメディア全盛期でもあったので、学生のスタートアップと言えば、キュレーションメディアかアプリを育てて、バイアウトを狙うのが主流。ただ、地味なリアルビジネスをしようとしている私から見れば、どう資金調達してどう事業価値を高めてバイアウトをするか、を念頭に事業をしている方々は違う世界にいるように感じられました。

 その頃「なんか、意識高いね」みたいな言葉が流行ってて、今ほど起業するのが一般的じゃなかったこともあり、周りからは揶揄されてましたね。「女の子は夢を追いかけられていいね」と謎のマウントとられたりもして(笑)。

 また、東大生なら外銀や戦コン、官僚や広告代理店などのいわゆる「いい企業」も目指せるのに、「なんでホテル? もったいないね」とよく言われました。ただ、私はみんなが行くところに行っても勝てないし、他の人があまり選ばない、新陳代謝が生まれづらい業界で、自分にしかできない仕事をしてぶちかませたら面白いと思っていました。

――でもいざ起業したら、ないない尽くしの現実で大変だったと(笑)。

龍崎 はい、とにかくお金もなく、人もいなくて、本当に何から何まで手弁当! 開業当初は予約が全く入らず、予約が1件入るごとに母と抱き合って喜びました。

 今となっては笑い話ですが、本来であれば専用のシステムで処理するような煩雑な予約管理作業を、諸事情でやむなく手動で行っていた時期もありました。恐ろしく非効率な作業だったため、案の定、夏の繁忙期にダブルブッキングが頻発し、涙目になりながら自分達が寝泊まりしていたスタッフルームをめちゃくちゃ綺麗にベッドメイキングして、お客様をお通ししたこともしばしば。

 ですが、パートさんたちに恋愛相談に乗ってもらったり、海外からのお客さんにお見合い話を持ちかけられたり、忙しくも楽しい北海道の日々でした。

――そんな状況からどうやって事業を飛躍させたんですか?