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若い世代は現状批判に「へきえきしている」

「石丸氏とメディア」にはいろんな論点があるだろうが、私はこれこそ最大の問題だと思う。記者を始めとするメディアが萎縮して政治家や候補者をスイスイと泳がせてきたのが今回の都知事選の「報道」であったのかもしれない。選挙期間中はほぼ沈黙し、そして選挙が終わると同時にテレビは石丸氏を重宝しだした。これは石丸陣営の狙い通りかもしれない。選挙後には石丸陣営の選挙参謀・藤川晋之助氏のインタビューがあった(朝日新聞7月13日)。

・街頭演説を200回超やったが、特徴的なのは、細かい政策を全く言わないことだった。自己紹介を言い続けた。

・政策で勝負しても全然意味がない。

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 私も石丸氏の街頭演説を何回か見たが、確かに何か言っているようで言っていないのが印象的だった。「続きはWEBで」と言っていた。藤川氏曰く、若い世代は街頭で他候補みたいな政策論や現状批判を聞いても「へきえきしている」という。

 ここは考えさせられる。よく「音楽に政治を持ち込むな」のように「○○に政治を持ち込むな」とことさら政治を忌避する動きがあるが、石丸氏は言ってみれば「政治に政治を持ち込むな」を実践したのだろうか。

7月7日、落選が確実となり会見する石丸伸二氏。「できることは全部やった」と振り返り、笑顔も見せた ©時事通信

 さらに言えば、少し前から批判や論評を「悪口」と受け止めて嫌がる風潮が各ジャンルで指摘されている。政治の話をすると「思想が強い」と冷笑する向きもある。そうした人の中では石丸氏は一見、無味無臭に見えたのかもしれない。しかし政治的なものや細かい政策論を嫌がった人たちがたどり着いたのは、わかりやすい罵倒動画を売りにした極めて政治的な人物なのである。政策より政局で上を狙う昭和のおじさん政治家の亜種に「政治的な初恋」をしたのだろうか。そのわかりやすさに。

 民主主義は議論や手続きに時間がかかってめんどくさいからこそ、他の制度より比較的信用できると言われる。その意味をいまあらためて考えている。