アカデミー賞長編アニメーション映画部門賞を受賞した『君たちはどう生きるか』で作画監督を務めた本田雄さん。「宮﨑駿監督作品・ジブリ作品は除く」という前提のもと、自身が太鼓判を押す日本のアニメ作品について語った。
◆◆◆
エネルギーをめぐる悲惨な戦争
好きな映画に共通しているのは、複雑な人間ドラマが描かれていること。それがあるかないかで映画の格が変わると思うんです。
たとえば『機動戦士ガンダム』劇場版3部作(1981〜82年)は、主人公のアムロ・レイをはじめ地球連邦軍の宇宙戦艦「ホワイトベース」に乗り込んだ少年少女が宇宙を旅する過程で最終的に“家族”になっていく。そこがひたすら泣けてくる。僕にとってガンダムは劇場版3部作以上のものはなく、シリーズの続編はもはや蛇足じゃないかとさえ思えてしまう。昨年のインタビューでも触れましたが(本誌2023年10月号)、劇場版ガンダムの安彦良和さんの絵は神業だと思います。
同じ富野喜幸(現・由悠季)監督の『伝説巨神イデオン 接触篇/発動篇』(1982年)では宇宙に進出した地球人と異星人バッフ・クランが、無限エネルギー「イデ」をめぐって戦争を始める。どちらも引くに引けずに泥沼の殺し合いが続き、最後は登場人物全員が次々と悲惨な死を遂げていく。小さなボタンの掛け違いから生まれる悲劇や人間の性(さが)がじっくり描かれていて、「アニメでここまでやるのか」という衝撃がありました。富野作品のなかでも『機動戦士ガンダム』劇場版3部作と『伝説巨神イデオン』の2作は神懸かっていると思います。
打って変わって、高畑勲監督『じゃりン子チエ』(1981年)では小学生の女の子・チエと彼女を取り巻く人たちの暮らしが淡々と進んでいきます。日常的な物語が映画として描かれ、観終えた時に大きな満足感が生まれる。他の作品ではなかなか味わえない体験でした。
映画を観た後に原作漫画を読んだのですが、高畑さんは漫画の設定をすべて生かし切ったうえで、膨らみのあるドラマを作り出していた。そこがすごいと思いました。やっぱり良い原作は極力変えるべきでないと思う今日この頃です。