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SNSで当事者同士を矢面に立たせてしまったのが最大の問題

 一方の小学館の報告書に目を向けると、芦原さんの「アンサー」に深く関与していた実相があらわになる。1月10日、芦原さんは「脚本家の投稿に対してストレスを受け、原稿が書けないほどになっている」(小学館報告書)ので「アンサー」の投稿を望んでいる旨を伝え、芦原さんと小学館関係者のあいだで時系列に沿った事実関係の確認が行われ、そのうえで芦原さんが公表文を用意した。それを叩き台として、小学館側と5、6回ほど修正のやり取りを繰り返して「アンサー」の本文を完成させている。また、芦原さんが「アンサー」を投稿した翌日には関係者を交えてオンライン会議が設けられ、その後、芦原さんから「思いは果たしたので、予期していなかった個人攻撃となったことを詫びるコメントを出して、投稿を取り下げることになった」(同)と伝えられたという。

波紋を呼んだ「脚本」のクレジット(公式HPより)

 脚本家にしても芦原さんにしても、一時的な感情に任せて突発的にSNSに意見を表明したわけではなかった。日テレも小学館も、脚本家と原作者の投稿について、内容を事前に承知していた。にもかかわらず、会社として釈明や抗議のオピニオンの表明もせず、本来なら内々で解決すべき問題をSNSという公の場で当事者同士を矢面に立たせてしまっている。報告書から見えてきた本件の最大の問題点であり、この点において両社の責任は追及されてしかるべきだ。

 双方の報告書は、今後も従前のドラマ制作体制を維持していくための「落としどころ探し」との印象は拭えない。みずから死を選ぶことになった作者の尊厳の回復や、残された遺族や関係者を慰撫するといった意図は、どちらにも含まれていない。ドラマ制作過程における業務フローをどれだけ整備したところで、実作者である原作者や脚本家に寄り添う意識が欠落したままでは、再発は免れないのではないか。

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◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2025年の論点100』に掲載されています。