ギャルたちがカラオケで歌う浜崎あゆみの歌の使われ方や、高校球児の四ツ木翔也(佐野勇斗)が、当時大ヒットした韓流ドラマ『冬のソナタ』でぺ・ヨンジュンが演じたヨン様に似ていることから「福西のヨン様」と呼ばれているといった00年代カルチャーの扱い方がどれも絶妙で、懐かしくて引き込まれる。
ただ、コメディテイストの物語とは裏腹に、ヒロインの結の表情はいつも曇っていて、何を考えているのかわからないところがあった。
結は家族を大切にする真面目な女子高生だが、「どんなに頑張っても、いずれ壊れてしまうから、何かに打ち込んでも無駄だ」という過度な厭世感に囚われており、書道部の活動もハギャレンの活動もどこか受け身で本気になれない。
橋本環奈の明るさが出ないことや演技力に不満を持つ声がSNSに溢れた
だが一方で、困っている人がいるとほっとけない性格で、衝動的に困っている人を助けようとしてトラブルに巻き込まれる。それを結は「米田家の呪い」だと言うのだが、ひとつひとつの行動がチグハグで、いちいち大袈裟に見える。
そのことに不満を感じた視聴者は多く、明るい橋本環奈が毎日観れると思っていたのに、彼女の魅力を活かしきれていない。あるいは、彼女の演技力不足を指摘する書き込みがSNSには溢れた。
また、栄養士の話になると思っていた視聴者は、ギャルの話を延々と観せられることに対しても強い違和感を抱いた。様々な要素が雑多に散りばめられているが、それらがうまく繋がらないため、何を見せたいのかわからない。というのが序盤の『おむすび』に対する多くの視聴者のいらだちだったのではないかと思う。
だが、この違和感こそが、作り手の狙いだったことは次第にわかってくる。
劇中の会話を追っていると、結たちが神戸に住んでいたことがわかるのだが、その時期のことは劇中では伏せられていた。だが、音信不通だった姉の歩が、突然戻ってきたことによって、第4週から米田家の神戸時代が描かれるようになる。
米田家は父親の聖人(北村有起哉)が理髪店を営み、神戸で平和に暮らしていた。しかし1995年11月17日に起きた阪神淡路大震災で家が倒壊。米田家は祖父母の暮らす糸島に引っ越すことになる。
聖人は商店街の仲間たちを見捨てて糸島に来たことに後ろめたさを感じながら実家を手伝い、歩は安室奈美恵とギャルに憧れていた、震災で亡くなった親友の真紀(大島美優)の意志を継ぐように高校入学と共に髪を染めてギャルになったことが明らかとなる。