「敵は己の妥協にあり」師の言葉を胸に
取材の日、この常連さんが友人を連れてきていた。「本を選んでもらいたい」というその友人のリクエストに応え、二村さんは丁寧に質問を重ねる。少しでも関心がありそうな話題があると、熱のこもった言葉で関連した本について解説する。その熱量に背中を押されるように、女性はこの日、『満天のゴール』を含めて数冊を購入していた。
近所に住んでいて、「この間、20年以上ぶりに来てみた」という高齢の女性は、二村さんの選書が気に入って、再訪していた。
「私ね、ほんまは人から勧められた本って嫌いですねん。自分で探すのが好きやからね。でも、読んでみたら面白かった」
さらに二村さんは近年、「ネットでニュースが消費されがちな今こそ、ノンフィクションの力が必要だ」と、環境、食、教育、ジェンダーなどさまざまな分野で大手メディアが報じないようなテーマを追求するジャーナリストや専門的な知識を持っている識者を招いてのトークイベントを次々に開催。メディアの役割も果たそうと奮闘している。
リアル書店の未来は、どうなるのか。そのヒントは、13坪の小さな書店にある。
「本当に先が見えないし、これでもか、これでもか、これでも本屋やめへんかっていう目に遭わされるんですよ、本当に。そのたびにどうしようって思うんですけどね。井村先生の本のイベントをした時に、トモちゃんにもサイン書いてあげるわ言うて、『敵は己の妥協にあり』って書いてくれはって。それからは、そうや、妥協したら負けや、なんかやれる方法があるはずやと思っています」
フリーライター
1979年生まれ。ジャンルを問わず「世界を明るく照らす稀な人」を追う稀人ハンターとして取材、執筆、編集、企画、イベントコーディネートなどを行う。2006年から10年までバルセロナ在住。世界に散らばる稀人に光を当て、多彩な生き方や働き方を世に広く伝えることで「誰もが個性きらめく稀人になれる社会」の実現を目指す。著書に『1キロ100万円の塩をつくる 常識を超えて「おいしい」を生み出す10人』(ポプラ新書)、『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦』(文春新書)などがある。
