『渡辺篤史の建もの探訪』が登場してから、地方局なんかでやたら「市井(しせい)の人のこだわりの家を紹介する番組」を見るようになった。
こだわりの住宅建築を紹介する番組なんてどうやろうと同じようなもんにしかならないと思うのだけど、雨後の筍(タケノコ)住宅番組と元祖・渡辺篤史のやつでは、見ただけで明らかにちがうのだ。雨後の筍番組はあからさまに「地元の住宅メーカー」と癒着している。ステキな住宅を紹介するのはあくまで「設計や建築を売るための販促」。そうは見えないようにしていても、全体に漂う「注文建築なのにお値打ち建売感」。水回りとか照明とか業者が決まってるとみた。
その点、渡辺篤史のは元祖なだけあってどんな家を紹介していても販促感はない。建主の、抑えつつも自慢げな様子をご覧に入れるのが目的だ。なもんで、つい視聴者はいろいろケチつけたくなる。何週か前にやった、三階の天井までの壁を本棚にした家とか、飾るにはいいが読むには不便だ、ハシゴかけなきゃ上のほう取れねえぞ? 本は飾り? あーやだやだ、とかつい毒づいてしまったが、……そりゃ金もかけてるだろうし自慢するのもしょうがない。自慢のための番組なんだから。
それよりも最近気になってるのは渡辺篤史のほうで、……なんだかミョーなのだ。喋り方が。番組のナレーションはいつもの渡辺篤史で、なんの不安もない。ミョーなのは、お宅に訪問して家を見ながら建主と会話をする部分。昔はこんなに猫なで声だった? 裏声寸前で半分息みたいな……あえぎ声みたい。
理由はだいたいわかる。お宅を訪問して「うわーすごいですねー」と言うべき部分でそういう声を出す。つまり感嘆の声。それにしたって、その感嘆の仕方が不自然なぐらいへんなあえぎ声なの。
この番組に出てくるようなこだわりの注文住宅は「すべてが見どころ! ホメどころ!」だし、しかし番組始めて三十年の渡辺篤史には「注文住宅のこだわりの細部」なんて見飽きてるようなもんで、しかし番組としては感嘆してホメねばならない。あのミョーな声は、「必死に絞り出そうというあまりのうめき声」なのでは。
他人様のこだわり住宅見て、ボロ社宅&ボロ賃貸生活三十年の私はすっかり妬み深くなり、渡辺篤史の裏声のうめき声の称賛コメントに「そんなたいしたことねえぞこんな家」と毒づいて溜飲下げている。自分でもイヤになる。
▼『渡辺篤史の建もの探訪』
テレビ朝日系 土 4:30~4:55
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/