今から95年前に起こり、約10万人の犠牲者を出した関東大震災に因み、「防災の日」が9月1日に定められた。折しも自民党総裁選に出馬した石破茂氏は近年の激甚災害を包括的に対処する「防災省」の必要性を提案している。7年前の東日本大震災の発生以来、「地震火山庁」の設置を提言してきた私は大賛成である。
痛ましい災害から学ばなければならない「悲しい現実」
私は、約40年ほど地球科学の研究に携わっているが、防災のポイントは自然災害の起き方と人間の認識の間に横たわる「ズレを減らす」ことにある、と考えている。というのは、地震や噴火や気象災害は、いつも我々の持つ「知識」を超えたところで起きるからだ。東日本大震災、大阪北部地震、西日本豪雨の全てが「想定外」で、我々専門家の予想を超える現象が発生したと言っても過言ではない。
少し前の話になるが、私が3人の友人を失った長崎県・雲仙普賢岳の1991年噴火もそうだった。彼らは、世界的な火山学者だったが、当時の火山学では知られていなかった未知の現象が起き、高温の火砕流に巻き込まれたのである。逆に言うと、想定外の痛ましい災害が発生することで学界に新知見がもたらされ、次の災害にやっと対処できるという「悲しい現実」がある。
自然災害は「想定外」に起きることを予め防災に組み込まなければならない。この際のキーワードは、「防災から減災へ」である。すなわち、災害を全て防ぐこと(防災)はできないから、せめて災害を減らすこと(減災)に徹しようという方法論だ。そこには私が学生たちに教えている「不完全法」という考え方が根底にある(拙著『一生モノの超・自己啓発—京大・鎌田流「想定外」を生きる』朝日新聞出版を参照)。
南海トラフ巨大地震を減災する「不完全」という考え方
我が国の防災上、最大の懸案となっているのは「南海トラフ巨大地震」である。2030年代に西日本全域を襲う激甚災害のことだが、土木学会は地震発生後の20年間に1410兆円の経済被害が発生すると試算した。また、今からインフラと教育によって対策を開始することによって、その8割から6割を減らすことができるとも提言した。ここには防災という「完璧主義」に陥らず、「不完全」でもよいから1割でも2割でも減災しようという現実的な判断が盛り込まれている。
最大高さ34mの巨大津波が地震の2分後に襲来する
南海トラフ巨大地震は西日本の海岸近くで発生するため、最大高さ34mの巨大津波が一番早いところでは2分後に襲来する。
国の中央防災会議が最悪の被害をシミュレーションした結果、犠牲者の総数32万人、全壊する建物239万棟、津波で浸水する面積は1000平方kmにも及ぶことが判明した。日本最大の工業地帯である太平洋ベルトを直撃することから、我が国の総人口の半分近い6000万人が生活に深刻な影響を受けると予想されている(拙著『京大人気講義 生き抜くための地震学』ちくま新書を参照)。