自治体間でデータの共有が進まない理由
――応援に行った自治体の職員が「お手伝い」になってしまうのはなぜか。
小林 例えば被災者は様々な公的支援を受けるために罹災証明をもらわなくてはならないが、そのフォーマットが自治体ごとに違うから、フォーマットを知っている地元の職員に教わらないと仕事にならない。日本には1718の自治体があり、極端に言えば1718通りのフォーマットがある。
コンピューター・システムも「地方分権」の名の下に各自治体が思い思いのシステムを構築してきたので、データの共有が進まない。システムとフォーマットが統一されていれば、理論的には被災地以外の場所で罹災証明の発行手続きをすることも可能だが、情報の流動性が低いので「現地で手書き」になってしまう。
医療データが消えてしまう
――被災地で支援活動をするNPOも「情報」がなければ動けない。
藤沢 東日本大震災では陸前高田市や大槌町の庁舎が被災し、情報システムがダウンした。こうなると、誰がどこに住んでいるのかが分からず、どこに避難しているのかも分からない。この状態ではNPOも、どの地域にどれだけ支援すればいいのか決められない。一方、被災者もどこでどんな支援が受けられるかの情報が得られない。結局、避難所の張り紙が頼りという、原始的な状態になってしまう。
医療データが消えてしまうのも深刻な問題。「お薬手帳」をなくしたお年寄りは自分がどんな薬を飲んだか覚えていないから、避難所で薬を出す時も最初から診察し直さなければならない。仮設の診療所の前にはいつも大行列ができる。
東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨。災害のタイプは違っても被災地ではいつも「同じ問題」が起きる。行政データのフォーマットを統一してクラウドに上げておけば、こうした問題のかなりの部分は解決できるのではないだろうか。
小林 行政データが消えてしまわないように、政府は「自治体クラウド」を作り、データをクラウドに保管することを推奨しているが、利用しているのは全国の自治体の半分くらいだ。お隣の韓国は行政サービスの基幹システムを国が運営しており、地方から「もっとこうしてほしい」という要望を聞く形になっている。米国ではデータ管理の安全性を考慮して国が民間クラウドにお墨付きを与える「FedRAMP」という制度がある。早く「日本版FedRAMP」を導入すべきだ。