25年ぶりに米長者番付の首位が交代した。10月3日、米経済誌フォーブスは、アマゾン創業者のジェフ・ベゾスの資産が1600億ドル(約18兆円)となり、ビル・ゲイツの970億ドル(約11兆円)を追い抜いたと発表したのだ。アマゾンの株価が前年比で2倍以上に上昇した結果だった。
その前日の10月2日、アマゾンは米国内従業員の最低賃金を15ドルに引き上げると発表した。米連邦政府が定める最低賃金7.5ドルの2倍である。定時雇用25万人だけでなく、年末商戦向けの短期雇用10万人も対象にするという。儲けすぎという批判を受けての決定だと言われている。その結果、株価は発表前に比べて3%程度下落したが、マーケット関係者はすぐに持ち直すだろうと予想している。
その理由はアマゾンがこれからも何をやらかすか判らない、つまりどこまで成長するか想像もできない企業だからだ。実際9月27日にはニューヨークで「Amazon 4-Star」という新業態の1号店をオープンさせた。アマゾンのレビュー平均が4.0を超えている家電製品やキッチン用品、書籍やゲームを取り揃え、プライム会員であればQRコードをかざすだけで割引する。Amazon Books、Amazon Go、Amazon Pop-up、Amazon Fresh Pickupに続くリアル店舗の新業態である。
さらにその1週間前にはスマートスピーカーAmazon Echoに対応した自社ブランドの電子レンジや時計も発表している。ネット小売から出発したアマゾンは、新業態のリアル店舗群を開発し、さらに家電製品までも作りはじめたのだ。
この激しい動きは米国内に留まらない。日本では10月4日から10日までAmazon Fashion Week Tokyoが開かれる。19年春夏のファッションを提案するためだ。さらに日本では1年ほど前から法人向けのECビジネスを開始していた。オフィス用品だけでなく、研究機関の消耗品や製造業向けの電子部品なども取り揃えている。なんといまでは国立大学の6割がこのサービスを利用しているという。
8月9日にダイヤモンド社から『amazon 世界最先端の戦略がわかる』を上梓したのだが、アマゾンの動きがあまりに激しく、発売日からの差分を書き出しただけでもこのありさまだ。しかし、アマゾンの稼ぎ頭は小売ではない。AWSというITビジネスこそがアマゾンの見えざる本体なのだ。アマゾン最大のライバルはデパートやスーパーではなく、マイクロソフトやIBMである。アマゾンはその二大IT専業企業を出し抜いていまや世界一のクラウドベンダーなのだ。その秘密も盛り込んで書き上げた『amazon』は発売から2ヶ月もたたないうちに10万部を超えて読まれている。多くの読者にとって他人事ではなくなってきているのかもしれない。
「文藝春秋11月号」では編集部の力を借りて『amazon』の肝となる部分をまとめた記事を書いた。9000字を超える文章になってしまったが、本を買わずとも十分にアマゾンの実態を理解することができるだろう。もし背後に忍び寄る影を感じることがあったら、それは幽霊などではなくアマゾンかもしれない。そんな時代を生きていくためには、まず相手を良く知らなければならないだろう。