1月28日は、ミュージシャンや俳優など幅広く活躍する星野源の36歳の誕生日である。昨年は星野が世間から一躍注目を浴びた1年だった。NHK大河ドラマ『真田丸』で徳川二代将軍・秀忠を演じたほか、TBSのドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』では30代未婚男子を好演、自ら手がけた主題歌「恋」がその振付(通称「恋ダンス」)とともに流行し、前年に続き2度目の紅白歌合戦出場も果たした。『逃げ恥』での役のハマりっぷりから、すっかり同世代男子の代表のようなとりあげられ方もされている。
ただし、キャリアはけっこう長い。学生時代から音楽と演劇活動を行ない、2003年からは松尾スズキ主宰の劇団大人計画に所属する。60年代の高校紛争を描いた映画『69 sixty nine』(04年)には、学校をバリケード封鎖する際、妻夫木聡演じる主人公に命じられ、校長室でウンコをさせられる可哀そうな後輩の役で出演。TBSの深夜ドラマ『アキハバラ@DEEP』(05年)では登場するオタクの一人で、ことあるごとに白目を剥いて気絶するという役柄だった。主人公のまわりをうろちょろしている雑魚キャラというのが、20代前半の星野に筆者が抱いていた印象である。だが、それも年を追うごとに変わっていく。NHKの朝ドラ『ゲゲゲの女房』(10年)では松下奈緒演じるヒロインの弟を演じ、田舎から東京の姉の家を訪ね、姪たち相手に優しい叔父ぶりを見せた矢先、急死するという展開が衝撃を与えた。
頭角をめきめきと現しつつも、必ずしも順風満帆だったわけではない。12年末にはくも膜下出血で倒れ、闘病生活を経験している。このときの様子をユーモアや下ネタを交えながら克明につづったエッセイ集『蘇える変態』(マガジンハウス)は、彼の筆力をうかがわせるに十分だ。著書にはこのほか『そして生活はつづく』(文春文庫)、『働く男』(マガジンハウス/文春文庫)、『地平線の相談』(細野晴臣との共著、文藝春秋)などがある。
『働く男』では自らのこれまでの仕事を解説するとともに、心の支えとする人物や作品を各ジャンルからあげている。サブカルという枠にくくられがちな星野だが、ビーチボーイズやナンバーガールなどと同列に、いわゆるサブカル好きがバカにしそうなCHAGE&ASKAをリスペクトしているのが面白い。他人の評価はどうあれ、好きなものは好きと素直に肯定してみせる姿勢には好感を抱く。
同書の巻末に収録された、同年代の芸人で芥川賞作家の又吉直樹との対談では、「知らない人の前でやりたいという気持ちは僕も強くありますね」と語った。それまで星野を知らなかった多数の人からも認知を得たいま、サブカルや文化系などといったくくりから彼がいかに突き抜けていくか見ものである。