外交オンチは国民病?

第261回

塩野 七生 作家・在イタリア
ライフ 国際 歴史

 ローマで、BBCの制作した一連のドキュメンタリー番組を見ていたときの話である。英国政府の閣僚も経験したことのあるジャーナリストが案内役になって、かつては欧米諸国の植民地であったアジアの国々の「今」を見てまわる番組。この男が常に持っていたのは、二十世紀初頭というあの時期に自国の植民地になっている国々を旅する観光客ならば、誰でも持っていたという英文のガイドブック。それが百年後の今では、何が残っていて何が失(な)くなっているかを語っていくのが、この番組の目的であったのだろう。当時、これらアジア諸国を植民地にしていたのはイギリスを始めとするフランスやオランダの、いわゆる植民地帝国主義の国々。それを見ていてわかった。彼らもけっこう良いことはしていたのだと。

 港や鉄道などのインフラの確立とか、まるでイートン校の分校ではないかという感じの現地人の子弟を教育する機関とか、気候が亜熱帯ゆえの避暑地の整備とか。だが、わかったのは次のことも、である。

 これらすべては、現地の人々のためではなく、この地を植民地にして利益を得ようとする側に都合の良い策であったということ。

 日本の一高が植民地の運営に役立つ事務官僚の養成機関になり、軽井沢で避暑を楽しめるのは外国人だけで、日本人で入れるのは使用人のみという状態を想像してみてください。

 ところが、香港まで来てこの後はいよいよ日本かと待っていたのだが、このシリーズは香港を最後に終ってしまったのである。それで思い出した。日本だけはアジア諸国の中で唯一、欧米の植民地にならなかったことを。とはいえ日本も、危ないところではあったのだ。

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source : 文藝春秋 2025年7月号

genre : ライフ 国際 歴史