科研費で人気マンガが復活
紐倉哲が帰ってきた。科研費(かけんひ)の成果というお土産をぶら下げて。
この本の謝辞に、こうある。「本作品は(中略)科学研究費助成事業の支援を受けて(中略)研究の一部として企画・作成されたものです」。この科学研究費助成事業の略称が科研費だ。このマンガは研究プロジェクトの一部なのだ。
『インハンド』については説明不要だろうか。天才だけど変人の寄生虫学者・紐倉哲を主人公とする、バイオサスペンスマンガ。作者は『リウーを待ちながら』でコロナ・パンデミックを予言した朱戸アオ。テレビドラマ化もされた。2020年にマンガ連載は一段落していたが、このたび新たに科研費の産物として4年ぶりに復活となった。
今回も、生命医科学の最新技術を駆使した犯罪が起こり、紐倉と助手役・高家春馬の凸凹コンビが活躍して事件を解明する。懐かしいインハンド・ワールドの復活だ。魅力的な新しい刑事も登場して、純粋にマンガ作品として楽しめる。既刊の『インハンド』を未読でも問題ない。

この作品をここで取り上げるのは、冒頭で触れた、研究成果としてのマンガ作品という側面を評価したいからだ。「遺伝子ドライブ」という馴染みのない生命医科学技術をマンガの小道具として登場させることで、その倫理的・社会的影響についての読者の関心を潜在的に高めるというプロジェクトの狙いは見事に達成されている。
難しい研究成果を「わかりやすく」説明するマンガは珍しくないが、そういう解説マンガはどれもつまらない。対して『インハンド』は、まず魅力的な物語や登場人物など水準の高い作品の中にさりげなく科学の最新知見が取り込まれている点、そして企画が研究者サイドからの発案である点が、とてもユニークだ。関係者の話を総合すると、企画(監修・原案の四ノ宮成祥さん)、製作(朱戸さん)、マネジメント(科研費プロジェクトの代表者藤木篤さんと講談社)の役割分担とチームワークが成功の鍵だったようだ。
マンガは、文章による論理的な展開と、視覚表現による感性への訴求力と、両方の良いところ取りができる表現形態だ。このような効果をもったメディアは、他にほとんどない。学術研究の成果発表として、とてもパワフルなスタイルなのだ。
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