地球を支配する「熱」
地学という理科の科目名が「地球科学」の略だと、本書の「はじめに」を読んで初めて知った。この略称は印象が地味で損をしていると思う。略さずに地球科学といえばもっと関心も高まり、受験科目から外され開講しない高校が多いという残念な現状を改善できるのではないか。
いずれにせよ地震の多い火山列島に暮らす私たちにとって重要な科目なのは間違いない。本書は、火山学の専門家である著者が、大学での講義や市民向け講演会などで長年伝えてきた地学のエッセンスを、わかりやすくまとめた一冊だ。
400ページを超える本書には、地球に関する基礎知識がぎっしり詰め込まれているが、著者はそこに一本、筋を通してくれる。ポイントは、熱だと。地球は46億年前に誕生して以来、内部の熱を宇宙に放出して冷え続けている。その熱が核、マントル、地殻と伝わるなかで、マグマが溢れ火山が噴火し、プレートが動いて地震が起きる。地球の活動は全て熱が支配しているというのだ。

東日本大震災を契機に、日本列島では1000年ぶりの大地変動の時代が始まった。どこでどのように、どれくらいの噴火や地震が起こるか、どれくらいの被害が予想されるかを、著者はていねいに説明してくれる。科学的根拠に基づいて巨大地震などの大災害は必ず起こると説き、それに備えるよう訴える。
火山と地震は大きな脅威だが、日本列島に住む人々はそれらから恵みも受けていることを忘れてはいけないと著者はいう。地震で動いて山ができ、そこから土砂が流れて平坦な土地と豊かな土壌が出来上がった。豊富な温泉や湧水も火山と断層があるおかげだ。100年、1000年の「長尺の目」で見れば、地震や噴火のない間の長い年月、人々は恩恵を受けてきたのだ。地学で学んでほしい第一のテーマは、このようにして人類の存立基盤を知ることだというのだ。

さらに地学の学習には、防災の観点だけでなく知的な感動や興奮もある。野山を歩く調査をして五感で地球の美しさと成り立ちを知ることができる。著者がこの本で伝えたいのはまさに、地学が面白くてためになる学問であるということだ。それこそ科学コミュニケーションの真髄だろう。帯の宣伝文句にあるとおり「一家に一冊、備えておきたい科学の本」だ。終始話し言葉で書かれていて、ちょっとくだけすぎかなと気になるところもあるけれど。
「『今』と『未来』を見通す科学本」は村上靖彦、橳島次郎、松田素子、佐倉統の4氏が交代で執筆します。
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