科学者と子供を繋いだ歴史
2024年に創刊100年を迎えた雑誌『子供の科学』の最初の21年の中身を、現在の視点から振り返って読み解いた。それが本書である。
まず目を引かれるのが、創刊号冒頭に掲げられた発刊のねらいを書いた文章だ。天地の間はびっくりするような不思議なことや面白いことで満ちている。だがこれを知るのは学者だけで、研究が忙しいので皆に知らせる暇がない。そこで少年少女諸君が喜びそうなことを学者に聞いて載せていくのが、この雑誌の役目だという。今でいう科学コミュニケーションの媒体となるべく作られた雑誌なのだ。
誌面に豊富に載せられた当時の図版を克明に写真で紹介しているのが、本書の第一の売りだ。その内容がかなり高度なことに驚かされる。映画の映写機の仕組み、空の花形だった飛行船の構造、国際無線電話のネットワーク地図などが、詳しい解説付きで掲載されていた。
現にある科学技術だけでなく、未来の予想記事も盛んに書かれていた。都市の高層建築化や、電力が基幹エネルギーとなり家庭が電化され便利になるという点は見事に的中。一方、電力を得る手段として石炭火力の限界は指摘されていたが、原子力や風力などの代替エネルギーに関しては現在に至る技術の展開が見えていなかったのが印象的だ。
深く心を動かされるのが、昭和8年の三陸沖地震と津波を伝えた記事だ。テレビのない時代、誌面に掲載された多くの写真により、惨害の実際を科学面の解説とともに読者はまざまざと知ることができた。面白い楽しいことばかりですませてはいけない科学コミュニケーションの役割を、見事に果たした歴史的事例として記憶したい。
本書の第二の売りは、日中戦争から太平洋戦争に進む時代に、急速に増えていく軍事に関する記事をつぶさに追っていることだ。その始まりは、満州事変の翌昭和7年年頭に出た「最新科学兵器号」だったという。目次の写真を見ると軍人が書いた記事がずらっと並んでいて、異様な感じがする。その後の号では現代戦は科学力による戦争だとされ、部隊の機械化、爆弾の威力と構造、爆撃機の模型の設計図などが紹介された。表紙絵が軍隊を描くものばかりになっていくのも本書巻末の歴代全表紙一覧でわかる。
科学技術が軍事にも利用されるのを知っておく必要はある。戦争遂行に加担することなくどうそれを伝えていくか、この科学誌の次の100年を見守りたい。
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