創造性の本質としての想像力
私は客観性と数値化が至上の価値となっている現代社会に疑問を感じ、一人ひとりの視点と「語り」を大事にすることの価値を訴えてきた(拙著『客観性の落とし穴』)。自然科学がもたらす客観性や数値だけが絶対的な真理とみなされることに危惧を覚えるのだ。
ところが本書は「語り」の力を神経科学や情報学から跡づける。そのうえで社会科学・自然科学で論理学が絶対視されることを批判する。
論理に従っているだけの科学は新たなものを創造することはできない。AIは知識を集積することはできても、新たな思考法を生み出すことはできない。アインシュタインのような天才が歴史を塗り替えるときには、論理を超えた想像力が働く。自然科学の進化のためにも、想像力に支えられた語りの力が必要であり、この能力はニューロン的な基盤を持っている。
「ヒトのシナプスは、個々の行動を因果関係のつながりの中でつなげ、私たちの脳が認知的ナラティブを即興で行ったり、試したり、改良したりできるようにしている。〔…〕
この物語思考プロセスは、ヒトの大脳新皮質内の膨大な数のシナプスによって非常に柔軟性がある。おそらく数兆個と見積もられているが、そのおかげで私たちの脳は、ほとんど無限の新たな方向へ向かう行動のスクリプトを分岐したり、柔軟に作ることができ、芸術、ビジネス、政治を革新できる」(同書122頁)
想像力は論理を超える。もし神経の情報伝達がニューロンにおける電気信号だけでなりたつなら、論理に従うだけであり、想像力の跳躍は不可能なのだ。
鍵はニューロンとニューロンをつなぐシナプスである。シナプスは神経伝達物質により伝達する。電気信号ではなくモノのやりとりだ。
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source : 文藝春秋 2024年12月号