松本人志×桜庭和志特別対談「誌上異種格闘技戦」

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お笑い界一の格闘技ファンと、レジェンド格闘家がマッチアップ! ( 取材・構成=矢部万紀子)
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松本氏(左)と桜庭氏

お笑い界一の格闘技愛と「グレイシー・ハンター」

 松本人志氏は、お笑い界一とされる格闘技愛の持ち主。ボクシング、総合格闘技など選手との交友関係も広い。

 桜庭和志氏は、日本の総合格闘技を牽引した第一人者。UWFインターナショナルからキングダムを経てPRIDEに参加。グレイシー一族に多数勝利したことから「グレイシー・ハンター」、180センチながら自分を大きく上回る相手を次々倒す自在な戦いぶりで「IQレスラー」とも称される。2017年にアジア人として初めて、アメリカの総合格闘技団体UFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)の殿堂入り。18年、寝技主体の組み技格闘技大会「QUINTET」(クインテット)を立ち上げ、現在も活動中。

 桜庭 PRIDEの頃、よく番組によんでいただいてからですよね、松本さんとは。

 松本 はい、そうです。そうですけど、僕は新日本プロレスとUWFインターとの対抗戦(1995年、東京ドーム)を生で見てたんですよ。

 桜庭 僕もUWFで出てました。

 松本 だから、意外と古いんです、桜庭さんとは。あの頃、時系列がちょっとあやふやですが、UFCの大会がアメリカであって(1993年11月)。金網の中でノールールで戦う、体重差も関係ない試合ですよね?

 桜庭 はい、そうです。

 松本 そのことを聞いて、「なんじゃ、それは」って、ビデオで見たんです。元々ボクシングとキックボクシングが大好きだったんですよ、親父の影響で。会話もない親子でしたけど、「YKK提供、キックボクシング」って番組を一緒に見たりして。

 桜庭 沢村選手ですよね。

 松本 そう、キックの鬼、沢村忠。小学校1、2年の月曜7時かな。そこからですね、1対1の格闘技が好きになったのは。この世界に入ってからは、「この人が勝った」ってはっきりわかるところに惹かれて。

 新日とUWFの対抗戦を知った時、「これは見に行かなアカン」と思って。その頃から桜庭さん、負けなしやったんですよ。「なんじゃ、この人は」ってだんだんなってきて。それからPRIDEですよね。グレイシー一族が出てきて。

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いまだに見返せない試合

 桜庭 新日との対抗戦の後、キングダムという団体にいって「UFCジャパン」(1997年、横浜アリーナ)に出場して、そこからPRIDEですね。

 松本 その頃から僕、選手のみなさんが体をあたためているようなところに入らせてもらうようになって。桜庭さんも何度かお見かけしたんですよ。

 桜庭 僕は……覚えてないです。パンチドランカーなんで(笑)。

 松本 目はあったと思うんですけど(笑)。うん、それはそうなんですけどね。いやいや、何というか……桜庭さんとは一度、ちゃんとお話をしたいのと、伝えたいなと思うことがあって。ほんと、お礼を言いたくてね。桜庭さんには、めちゃくちゃ楽しませてもらいましたから。

 桜庭 いや、もうちょっと楽しんでください、まだ現役なんで(笑)。

 松本 はい、そうなんですけど。でも、あんなに興奮したことがちょっとないほど興奮した何年間でしたから。うーん、一度、この気持ちをお伝えしたかったんですけど、僕、実はいまだに桜庭さんとシウバの試合を1回も見返してないんです、あれ以来。

 桜庭 ヴァンダレイ・シウバ。

 松本 3試合(2001年3月、11月、03年8月)とも当日以外、見てないんです。ちょっと前も小池栄子の家に行ったら、みんなで「格闘技、見よう、見よう」ってなって。いろんな試合の中にあの3試合も入っていたけど、「ごめん、小池。俺はいいわ。この試合、あれから見てないし、見たないねん」って。

 僕、気絶しそうになったんですよ、第1戦、1人で見てて(笑)。

 桜庭 あれは、今見ても面白いですね。

 松本 え、桜庭さんは見ますか?

 桜庭 たまに、酔っ払って見ますね。「UFCファイトパス」という有料チャンネルで、昔のPRIDEを全部放送してるんで。この前はたまたま僕とランペイジ・ジャクソンとの試合(2001年7月)を見たんですけど、面白かったですね。

 松本 面白かったです。桜庭さんが勝ってる試合なんで、僕は今も全然見られるんですけど(笑)。いや、ランペイジはえぐかったですね。「どんな思いでこんなヤツと対峙すんのやろ」って見てました。

 桜庭 「なんかちょっとこれ、おかしくないか」って感じでしたね。

 松本 明らかにおかしかったですよ。とにかくデカい。120キロ近くあったですもんね。30キロどころじゃなく、桜庭さんより重かったですよね。

 それで、シウバ戦ですけど。モデルの畑野ひろ子、ご存じですか?

 桜庭 はい、PRIDEの中継でもゲストコメンテーターとかしてましたよね。

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ヴァンダレイ・シウバ

「だから言ってたやんけ」

 松本 僕はドラマ(「伝説の教師」、日本テレビ系、2000年)を一緒にやったりして、けっこう格闘技の話をしてたんですよ。シウバ戦が近づいてきた時、「楽勝ですよね」と畑野が言うんで、「アホか、俺なら絶対に今はやらせない」って言ったんです。すみません、「やらせない」って。

 桜庭 大丈夫、大丈夫(笑)。

 松本 ルールがまだかっちり定まってなかったですよね、あの頃。それなのに、4点ポジションからの蹴りはオーケーになって。「何で!?」って一人で怒ってたんです。

 桜庭 四つん這いになった状態の相手に、下から蹴り上げていいというルールが試合前にできたんです。シウバとの初戦の時に。

 松本 いやいや、ありえないですよ。ましてや、シウバはムエタイがベースのシュートボクセの選手ですから。

 桜庭 4点ポジションは体重差が出るし、パワーも違いましたし。いまだにムカつきますけど(笑)。

 松本 いつもPRIDEは後輩とかと集まって見てたんですけど、シウバ戦はたまたまみんな忙しくて、僕、家で一人で見たんです。サッカーボールキックをがんがん入れるシウバに、「だから言ってたやんけ」って。気を失いそうになりました、本当に。そんなことがあって、桜庭さんには、それをちょっとお伝えしたくて。

 桜庭 見てください、シウバ戦。一番面白いのは2回目ですかね。3回目は僕、普通にやられたんで。

 1回目はちょっとまあ、シウバにムカついていたんですよ。目を合わせると余計ムカつくって思ってて、いざ、カーンって始まったら、すぐに1発、自分の打撃がドーンと入って。会場がダーっと沸いたんで、「ここは殴りにいくしかないなー」って出ていったら、滑っちゃって。そこからボコボコにされたんです、はい。

 松本 そこなんです。僕は畑野に言ってたんですよ、「桜庭さんは当て勘が強いから、なまじっか当たっちゃう。打ち合ってしまったら絶対アカンけど、当たっちゃう」って。だから、試合を見ながら「これ、言ってたから」ってずっと言ってました、一人で(笑)。

 桜庭 2試合目はいろんな展開があって見るには面白いですけど、でも失敗は失敗です。

 松本 1試合目のあと、2週間くらい元気なくて、仕事もなんか、ちょっとやる気が出ないくらい。僕の中ではすごい出来事だったんです。あのー、シウバに、ごめんなさい、シウバばかり申し訳ないんですけど、なぜそんなに腹が立ったんですか?

 桜庭 試合前、「桜庭、てめえ、この野郎、ナントカカントカ」って言ってたんです。別に俺、あんたに悪いことしてないしー、なんで勝手に怒ってるのー、って思って(笑)。

 松本 腹立ちながら、試合、できるものですか?

 桜庭 いや、できれば立てない方がいいですね(笑)。

 松本 冷静な桜庭さんでも、珍しく立っちゃったんですね。腹立っても勝つこともあるんですもんね。

 桜庭 まあ……はい。

 松本 あんまり(勝たない)ってことですね。そうかー。

 桜庭 試合時間が十分だったら十分、ずっと腹立ってるわけじゃなく、一瞬なんです。シウバには、その一瞬でボコボコにされた感じ(笑)。

「クインテット」の面白さ

 松本 僕、いまだにあの試合は納得できなくて……。すいません。

 ところで、最近は「クインテット」を主宰されてるんですよね?

 桜庭 はい。団体勝ち抜き戦です。5対5で、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将でやるんですけど、みんながヘビー級にならないように、男子なら5人で430キロ以内と決めて。100キロの人が出たら、60キロ、70キロの人も出なくてはならない。野球の打順みたいに勝てる順番を考えないといけないから、それが面白いんですよ。

 松本 膝をついた状態から始めるんでしたっけ?

 桜庭 立って開始で、打撃はなし。基本は寝技ですね。自分が格闘技をやってきて、こうだと面白いなーと思ったものを全部ミックスしています。高校、大学でレスリングをしていましたが、団体戦の方が気合い入ったんですよ。勝った時のうれしさ、負けた時の悔しさも個人戦とは全然違う。そういう1対1の面白さと団体戦の面白さ、両方がクインテットにはあります。

 松本 だんだんと、プロデュースする側に回っていきますよね。「どうやったらこの子らが、楽しんでできるのかなあ?」って思うし、「こんなんあったら良かったのになあ」って自分が若手の頃に思ったことができるようになってくるので。

 桜庭 あ、それ、僕も考えますね。「ルールをこうした方が、もっと面白いんじゃないのか」みたいなこと。

メインストリームになれない

 松本 でも、これが難しくてね。例えば「ドキュメンタル」(「HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル」、アマゾンプライム独占配信)は番組への招待状を渡すところから始まるんですけど、渡されて集まってくる後輩はそれを「パワハラ」だと感じているかもしれない。だから聞くんですよ。「ホンマに出たがってる?」って。「出たいです」って言うんで、信じるしかないんですけど(笑)。

 ところで、最近の格闘技ってどうですか? フジテレビが年末に中継した「ライジン」(RIZIN FIGHTING FEDERATION)とかありますけど、僕は見なくなってしまって。

 桜庭 そうですか。

 松本 総合格闘技が、プロレスをも揺るがすくらいになったんですよね、一時は。大晦日に3局が総合格闘技を放送したこともあって(2003年)。

 プロレスは昔からみんなになじみがあってお年寄りも楽しめるものなのに対し、総合格闘技は好きな人はすごく好きだけど、わからない人は全然わからないものなのかもしれない。だから総合格闘技はやっぱりサッカーや野球とは違って、市民権を得られない。メインストリームにはなれないところが魅力ということになってしまうんですかね。

 桜庭 アメリカでは今、プロレスと総合格闘技とそれぞれ盛り上がっていますけど。日本のプロレスはやっぱり長い間、見続けて、その流れ、ストーリーが面白いんですね。

 松本 日本は独特なんですかね。僕、プロレスはそこまで詳しくないんですよ。

 桜庭 どんなチームがどこから分かれて、誰がどこに入るのか。裏切ったり裏切られたりとか、そういうドラマみたいなのがあるじゃないですか。

 松本 総合格闘技はそれとは違って、「1話完結」なんですかね。

 桜庭 ま、そんな感じですね、はい。

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「バツーンもらってガクーン」

 松本 「ライジン」は見ますか?

 桜庭 うーん。あまり見ないですね。

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source : 文藝春秋 2021年8月号

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