古生物学者は何に悩むのか?
古生物学という言葉に馴染みはなくても、化石を通じて恐竜などの太古の生き物を研究する科学の一分野だといえば、ああ知ってる、大好きだという人は多いだろう。かくいう私もその一人だ。
そんな古生物学を研究して約15年になるという著者が書いた本書は、化石研究の最新成果を紹介する図鑑のような本ではない。どのようにしてそういう成果が得られるのか、研究現場の様子を目に見えるように伝えたいというのが、著者の目指すところだ。古生物学の「ロマンあふれるイメージの裏に潜む苦悩や希望」を知ってもらおうというのだ。
その本書がすごいのは、まず、わかっていないことを次々と示してくれるところだ。そもそも一部の化石はどのようにしてできるのか、よくわかっていない。化石になる間に元の形がどれくらい変わってしまうのかもわからない。どれくらいの生物が化石になるのかもわからない。著者は、これまで地球上に生息した全生物のうち、化石が地層に残るのは、0.00001%だと推定しているが、これも科学的に確実な数字ではない。
こんな不確かさが古生物学者を悩ませるのだが、もちろんわかることも多い。化石からは、第一に、今はいないこんな生き物がかつていたという「存在確認」ができる。あたりまえのようだが、これが大事な知見だと著者はいう。また、重なった多くの地層の調査により、数万年以上のスケールで時系列を追えるのが古生物学の最大の強みで、生物の進化と地球環境の変遷の歴史を明らかにできる。
それでも、化石からは生きている姿や様子はわからない。化石と実際の生物の距離をどう埋めるかが古生物学者の腕の見せどころで、そのための多様なアプローチとして遺伝子分析や数理モデルを駆使する研究があることが紹介される。
だが古生物学の現状に対する著者の目は厳しい。本書で示された多くの不明点や疑問点を本気で検討している人は少ないという。研究者人口は減り続ける一方で、世間の関心も研究者を目指す動機も恐竜に偏り幅が狭くなりがちだ。著者は、古生物学者の多様性がもっと増えてほしいと訴える。そうでないと、学問として先細りしてしまうと危惧する。
わかっていないことが多いのに研究者は少ない。だがそれは誰でも革新的な成果を出せる可能性があるということでもある。だから古生物学は面白い――そんな著者独特のひねりのある熱意を味わえる、ユニークな科学本だ。
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