眠ること、それは奇跡かもしれない
私は寝るのが大好きである。子どもの頃は昼寝が何よりの楽しみだった。今も毎日7時間半は寝ていると思う。
ところが、私の研究上の専門である現象学という方法論の舞台は「意識」である。意識で照らし出される行為や感情を探索するのだが、寝ているときには意識はない。つまり私の研究からはアクセスできない壁の向こう側が睡眠なのだ。
というわけで、身体のさまざまな側面を横断して睡眠を多面的に捉える本書に惹かれ、一息に読み終えた。著者は睡眠医学を専門とする精神科医。それぞれ専門分野に分かれるさまざまな臓器にまたがって睡眠について書くことはとても難しいそうだが、チャレンジしてくれたおかげでこんなに面白い本が読めた。
レム睡眠・ノンレム睡眠、交感神経・副交感神経、オレキシン、24時間強で1日を刻む生体リズム、メラトニン、深部体温、さまざまなホルモン、炎症で活性化するサイトカイン、と複雑な要素が変化するリズムとそのバランスが調和したとき、ようやく人は眠ることができるという。
こんなにも精妙なバランスが必要だとすると、眠れること自体が奇跡のようだ。睡眠とは、多様な交わらないリズムの場なのだ。
さらに、(寝ているときは抑えられる)便意、尿意、(睡眠中は不安定になるという)呼吸(睡眠時無呼吸症候群に悩む読者は多いはずだ。私もいびきをかく)。(寝る直前に食べると起きやすい)逆流性食道炎、高血圧、筋肉・骨・皮膚の回復、記憶の定着にかかわる夢、あるいは感染症やがん・うつ病、というように身体を整える極めて多くの側面に睡眠が関わるというのだ。
睡眠がどれだけ大事なものなのかがわかるだろう。あまり気にすると眠れなくなりそうだが……。
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