日本人の心を歌った、素晴らしき昭和歌謡の文化を後世にも遺したい。そんな思いから、私は「万葉集」に倣い、昭和歌謡の名曲を厳選して「昭和万謡集」として編むことを思い立ちました。
実際に編纂するにあたって、各界の識者のご意見も参考にしたいと思い、「後世に遺したい昭和歌謡の名曲3曲」というテーマのアンケートをお送りしました。作家、評論家、音楽家、科学者、スポーツ選手、政治家など、実に30人以上もの方からご回答をいただきました。この場を借りて、感謝を申し上げたいと思います。
加えて読者の方々にも、「あなたの好きな昭和歌謡の名曲3曲」というアンケートを募りました。100通以上もの投稿があり、私自身これほどの反響があるとは、予想していませんでしたし、万感の思いが込められた1枚1枚の文面を読んで、胸が震えました。
今回のアンケート結果を見て、私はある重大なことに気づかされました。昭和歌謡には、今、聴いても「良い歌だな」と感じられ、今後も歌い継がれるであろう優れた名歌がある一方で、国民みんながこぞって愛唱し、繰り返し聴いていたにもかかわらず、今は歌われることは少なくなり、当時の日本人の心象を映し出す時代の象徴としてのみ残っている歌もあるということです。
それは「永続性」と「一回性」の違いと表現してもよいでしょう。ある時代にだけ強烈な光を放ち、人々の心を打つ、「絶歌」とでも言いたくなるような一回性の歌が、昭和歌謡の世界には数多あるのです。「昭和万謡集」を選ぶにあたっては、そのような「絶歌」を無視してはいけない、と強く思いました。
「こんにちは赤ちゃん」に感涙
例えば、読者アンケートでは、1948年に発表された岡晴夫の「憧れのハワイ航路」を挙げている方が何人もおられました。
戦後間もなく、白米が高価で「銀シャリ」と貴ばれるほど貧しかった時代。船に乗ってハワイに行くことは、夢のまた夢でした。当時、国民の多くが強い憧れを抱いてこの歌を聴き、私なども本当によく口ずさんだものです。ところが経済的に豊かになり、誰もがハワイに行ける時代となった今では「あゝ憧れのハワイ航路」などという歌詞を聞いても、心を動かされる人は誰もいないでしょう。まさに一回性の歌なのです。
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