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昭和61年生まれの私が選ぶ「昭和歌謡3曲」

編集部日記 vol.17

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「昭和歌謡の文化もそのうち消えてしまうかもしれない。だから、今のうちに記録に残しておくべきだと思うのです」

 作家・五木寛之さんのそんな一声から「昭和歌謡で万葉集を編もう」(「文藝春秋」2023年11月号)のインタビューが始まりました。美空ひばりや石原裕次郎、都はるみ、藤圭子、井上陽水、ピンク・レディーなど個性豊かな歌手たちが、日本人の心を歌い上げた昭和歌謡。ただ、平成、令和と時代を経るに従って、徐々に忘れ去られていく状況にあります。そこで編まれてから1300年以上経っても親しまれている奈良時代の「万葉集」に倣って、後世に遺すべき昭和歌謡100曲を厳選し、昭和歌謡版の万葉集を編もう、という呼びかけを誌面を通じて、五木さんにしていただきました。

五木寛之さん ©文藝春秋

 今後は100曲を選ぶにあたって、まず各界の識者の方々にアンケートをお送りし、「後世に遺したい昭和歌謡3曲」を挙げていただきます。その結果を踏まえ、五木さんを中心とした座談会を行って最終的に100曲を選ぶ予定です。

 打ち合わせの際に五木さんは「親が昭和歌謡を口ずさんでいるのを聴いたのか、今の若者の中にも詳しい人がいますね」とおっしゃっていました。それを聞いて、自分自身のことも振り返ってみましたが、私は1986(昭和61)年生まれ。ちょうど昭和歌謡の時代が終わりを迎えようとしていた頃です。残念ながらリアルタイムの思い出はありません。

 親の記憶を辿っても、父はいつも仕事ばかりで、歌を口ずさむほどの陽気なタイプではありません。母も近所の子を集めてピアノの先生をしていましたが、どちらかというとクラシック派。実家には昭和歌謡の香りは皆無でした。

 ただ、私が大学生の頃だったと思いますが、実家に帰省した際、父が居間で酒を飲みながら、さだまさしのトーク番組「今夜も生でさだまさし」(NHK)を見てゲラゲラ笑っていたことがありました。一度や二度ではありません。私は冷ややかに「また、さだまさし見てるな」と横目で眺めていましたが、母もなかば呆れた様子で「お父さん、若い頃に『精霊流し』とか聴いてたんでしょ」と言うと、父は恥ずかしいのか、「いや、そんなことはない」と最後まで認めなかったのを妙に覚えています。

 このように昭和歌謡にまつわる思い出は決して多くないのですが、僭越ながら、今回のアンケート企画に倣って、勝手に「後世に遺したい昭和歌謡3曲」を選んでみました。

 1曲目は何といっても、「喝采」(1972年、歌手:ちあきなおみ、作詞:吉田旺、作曲:中村泰士)。数年前に米俳優のトミー・リー・ジョーンズが出演する缶コーヒーのCMで流れていて、ちあきなおみの物悲しさを湛えながらも心が鼓舞されるような力強い歌声に魅了されました。

 次は「君のひとみは10000ボルト」(1978年、歌手:堀内孝雄、作詞:谷村新司、作曲:堀内孝雄)。底抜けの明るさが何度聴いても心地よく、歌詞も素晴らしいです。

 3曲目は「また逢う日まで」(1971年、歌手:尾崎紀世彦、作詞:阿久悠、作曲:筒美京平)。尾崎紀世彦の声量が物凄く、一度聴いたら忘れられません。実はコロナ禍が収まってきたので、最近久しぶりに行ったカラオケで挑戦したのですが、聴くだけでなく歌ってみても気持ちのいい歌であることが分かりました。

(編集部・祖父江)

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