「慶應生ってのはさ、母校愛がケタ違いなんだよ」
夏の甲子園、慶應高校の107年ぶりの快挙達成に早稲田大学出身の局長が呟きました。それを聞き逃さなかった小誌編集長の発案で「慶應義塾の人脈と金脈」特集を作ることになりました。
小社では、多くの早大出身者、慶大出身者が働いています。早大出身者はこう口を揃えます。「早稲田だとあそこまで盛り上がらないよ。あんな風に団結できないから」。彼らは多少の皮肉も込めて永遠のライバルたちを眺めているようです。「自分たちとは違う」と。
甲子園での熱狂ぶりには、ご存知のように批判も多くありました。でも考えてみれば、会社も学校も親戚も、家族ですらバラバラの現代に、なぜあれほど強烈な集団アイデンティティを維持できるのか――。たしかに気になるのです。そんな素朴な疑問から取材班は出発しました。
まず頼ったのは、社内やOBの慶應出身者。「人脈」「金脈」などと露骨なキーワードには警戒心を覗かせた彼らでしたが、次第に、誰もが胸に秘めた母校愛を惜しみなく語り尽くしてくれました。
「先輩紹介しようか?」
「女性にも聞いた方がいいんじゃない?」
あれよあれよと友だちの輪は広がっていきます。私たちは図らずも、取材を通してまさにその「人脈」の一端を目の当たりにしたのでした。
“無邪気で自然な感情” “シンプルな喜び” “楽しい” “好き”
大の大人たちから溢れ出るポジティブワードの数々に眩暈を感じながらも、思わず自問してしまいました。子どもの頃には持っていたはずの素直な気持ち。自分はいつからそんな感情を忘れてしまったのだろう……と。あんまり斜に構えて生きるのも、考えものなのかもしれません。
(編集部・佐藤)
source : 文藝春秋 電子版オリジナル