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橘玲さんが提案してくれた『イーロン・マスク論』の“予想外の切り口”

編集部日記 vol.15

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「イーロンのことなら、テクノ・リバタリアンについて書いてもいいですか?」

 最高気温が36度を超えた7月25日、就任したばかりの本誌新編集長、デスクとともに私は作家の橘玲さんに原稿執筆をお願いするべく、中央線沿線のカフェにいました。テーマが9月に刊行される『イーロン・マスク』と聞くと、橘さんはこう切り出したのです。

イーロン・マスク氏 ©時事通信社

 橘さんとお会いするのは、この日が二度目。顔出しを一切されておらず、“言ってはいけない”現実を容赦なく読者に突きつけてくる橘さんのことを、お会いする前は「怖い人なんじゃないか」と構えていました。

 けれど、お会いすると橘さんはいつもこちらの拙い話も丁寧に聞いてくれ、とても穏やかな声で考えていることをお話ししてくれます。元編集者ということもあり、こちらの狙いも手に取るように分かるのか、話題はすぐに「では、どんな原稿を書くのか」へと移っていきました。

イーロン・マスク』(井口耕二訳)は評伝の名手であるウォルター・アイザックソンによる、イーロン初の公式伝記。全世界同時発売、アメリカではすでに100万部を突破した同書は、トヨタを上回る時価総額を誇るテスラの操業・創業秘話やTwitter(現X)買収を巡る舞台裏が赤裸々に綴られています。

『イーロン・マスク』 ©文藝春秋

 同書で詳細に描かれているイーロンの半生、数々のイノベーションのことをあつかう原稿になるかと思いきや、橘さんの返答は編集部の予想とはやや異なるものでした。橘さんがテーマに据えた「テクノ・リバタリアン」のうち「リバタリアン」とは、「自由原理主義者」を指し、国家による規制を最小限に減らし、個人の自由を最大化することを重視する人々を意味します。

 橘さんは「国家の規制や介入のない自由な環境こそがテクノロジーを進歩させる」と考える「テクノ・リバタリアン」の代表としてイーロン・マスクを挙げたのです。

 ここで内容を詳らかにすることはできませんが、本誌11月号に掲載された「橘玲のイーロン・マスク論」は、国家をゆうに超える資産を持つ“ごく少数”の起業家が、テクノロジーによって私たちの世界そのものを大きく改造しようとしている実態を描いています。

 イーロンは1999年、「Xドットコム」というオンライン決済システムの会社を起業しました。同社が競合他社と合併してサービス名が「ペイパル」となったとき、CEOだったイーロンは大ファンである映画『X-メン』の上映会を社員たちと行います。『X-メン』は、超人的な能力を備えた、“ごく少数”のミュータントが世界を救うマーベル・コミックが原作です。

 イーロンは3番目の妻との子を「X(X Æ A-12)」と名付け、買収したTwitterの社名を「X」へと変えました。なぜイーロンは「X」にこだわるのか? その理由にも迫っている本誌11月号掲載の「橘玲のイーロン・マスク論」をお楽しみください。

(編集部Y)

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

genre : ビジネス 企業 テクノロジー