科学と文学、想像力は混ざり合う

橳島 次郎 科学技術文明論研究者
エンタメ 読書

『ここはすべての夜明けまえ』間宮改衣/早川書房

『サンショウウオの四十九日』朝比奈秋/新潮社

『DV8 台北プライベートアイ2』紀蔚然著、舩山むつみ訳/文藝春秋

 科学本の書評を担当しているが、普段はミステリーとSFの小説を読み漁っている。科学技術が私たちの生活の隅々まで浸透している今、科学的想像力と文学的想像力は刺激し合い混ざり合う。それを味わえる1冊に出会えるのが何よりの喜びだ。

『ここはすべての夜明けまえ』は、体のほぼ全てを機械化することで永遠に老化しない手術を受けた主人公が、近しい人々が死んでいった長い時を振り返り、自分の特異な生について独白する近未来小説だ。手術のお陰で食べる必要も寝る必要もなくなり、生理からも解放された主人公は、「ちゃんと人間じゃなくなれたこと」を喜ぶ。だが彼女のその後の生活は、生まれた甥の一生に寄り添うことが中心になる。自分を受け入れてくれた人とおしゃべりできたことに感謝する。そんな彼女は人間らしさを失っていない。「いろいろあって」ほとんどの人間が死に終末を迎えた地上で彼女は生きる希望を持ち続ける。こんな境地が得られるなら全身の機械化もいいなと思う。

 

『サンショウウオの四十九日』は、2人の体が融合して1人の体で生まれた結合双生児が主人公の小説だ。右半身と左半身の姉妹が、変わりものすぎる自分たちの人生について交互に独白していく。一つの体の中で臓器と体感と感情と思考まで共有しているという、医学的にはあり得ない異様な設定をあえてして、どのように自分は自分であるのか、意識と身体はどういう関係にあるのかを突き詰めようとした思考実験がこの小説の主題だ……というのは頭でっかちな感想で、お互い同士や周りの人々と淡々と関わる2人の語りをただ楽しめばいいのかもしれない。異質の身体を持った者への差別感を乗り越えた小気味よさがそこにはある。

『DV8』は、台湾発の私立探偵小説の待望の続篇。事件を追う主人公と人々のやりとりに著者独特のユーモアと切なさが滲み、歪んだ心と救いが描かれる。台湾を全く違う角度から見られるこのシリーズ、執筆中だという3作目も楽しみだ。

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source : 文藝春秋 2025年1月号

genre : エンタメ 読書